ヘッドフォンを外して、向かい側に座る彼に手渡す。

触れた指先が、一瞬あったかくなる。





「あれ、なにも聴こえない‥‥‥‥?」


「はい。‥‥‥‥なにも、聴いてませんので」





____ああ。今、「変な子」って思われた。





「変、です‥‥‥よね」


心臓が嫌に波打って、治まらない。

今のこれを色に表すとしたら、麹塵色(きくじんいろ)

濃く、暗い、茶色がかった緑色。




イガイガして、ぐるぐるして。

苦しくなる。






「はい」


「‥‥‥‥え」彼がヘッドフォンを取って、私の頭に被せてくる。


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「あの‥‥‥‥‥‥‥‥」


「ん?」


「どうしてなにも、言わないんですか」


「なにが?」


「‥‥‥‥私のこと、お、おかしいって‥‥‥‥思いま、せんか」


私が言うと、目をぱちぱちさせて不思議そうな表情(かお)をする。




「べつに」




「え」


「だって、理由があってそうしてるんだろ」


「まあ、そうですが」





「俺は、シノのやり方でいいと思うから」
   

「‥‥‥‥違う?」やさしい笑顔を向けてくる。





____ああ、初めて。

私にこんな風に、言ってくれる人。 


心が、ものすごく軽くなったように感じる。

私のことを否定してくれなかったことが、これほどうれしいなんて。



「べつに」の一言が、こんなに。

こんなに、うれしいなんて____。







「‥‥‥‥‥‥‥‥っ」一瞬、目の前がぼやける。


「え、どうしたの、大丈夫?」涙に気付いたのか、少し灰色がかった色が見える。


「なんでも、ないです。ちょっと目に、ごみが‥‥‥‥」





この人には話しても、否定はしないんじゃないかって。

そう思えた。