汐瀬さんと出会ってからのこと、学校が少々騒がしかった。
「玲渚、おはよ」
 登校してきて、ボーっとしている僕に声を掛けたのは中学のときからの友人である星野(ほしの)咲人(さきと)
 彼はサッカー部のエースで女子人気の高い奴だが、僕にもとても優しく憎めない存在なのだ。
 咲人の人気を少し僕に分けてほしいところだ。
「おはよ、今日は朝練なかったの?」
「うん。てか、今日転校生来るって本当なの?」
 咲人が僕の隣の席に座る。
 僕は一番後ろの席で、窓際から二番目。
 一番後ろの窓際の席は誰も座っていない席だ。
 もしかしたら、今咲人が座っている席に転校生が来るのかもしれないと一人で妄想を膨らます。
「初耳だよ。どっからその情報回って来たの?」
「昨日、篠崎(しのざき)が言ってた」
 篠崎というのは僕たちのクラスの担任の先生だ。
「え、僕知らないんだけど」
「だって玲渚寝てたもん」
 僕という人間は大事な話に限って聞いていないことが多い。
「マジか。でも、僕の隣とか空いてるしもしかしたら本当なのかも」
「転校生って今の時期に来るんだな」
 咲人が不思議そうに言った。
「確かに、この時期となれば大学受験のこととか考えるし、三年目で転校なんて不思議だな」
 そうは言っても各家庭の事情とかもあるだろうから、僕たち第三者が何か言うのは違う気がする。
 僕がそう咲人に言った瞬間、チャイムが鳴り、皆は自分の席に着いた。
「おーい、みんな静かにしろー」
ㅤ篠崎先生が教室に入って来た。
「昨日言ったが、転校生がいるぞー」
ㅤ篠崎先生が言うとクラス全員が大盛り上がり。
「……汐瀬絃凪です。三年生の夏前だから、あんまり全員と話すことが難しいかもしれないけど、仲良くしてくれると嬉しいです」
ㅤ汐瀬さんはぺこりとお辞儀をした。