いつも通り、同じシナリオを繰り返す僕。
 何も起こらず、何も変わらず、ただ時間だけが過ぎていく。
 平凡な日々だが、毎日のように何かが変わっていったらそれはそれで大変なのではないかと思う。
 ──彼女と出会うまでは。

 学校の帰り道、細い路地を歩いていると後ろから猛スピードで自転車が走って来た。
 こんな細い道に自転車が突っ込んで来たら誰かがケガをしてしまうではないかと内心怒っていると、僕を通り越した自転車からベルの音が聞こえた。
 一回ベルを鳴らせば聞こえるのに何回もベルを鳴らしていて正直うるさい。
「──……危ないっ!」
 僕は数メートル先にいた一人の少女を目掛けて走った。
「……きゃっ」
 少女は僕に急に腕を掴まれたからなのか身体がビクッと跳ね、悲鳴を上げていた。
 僕は少女の身体を壁際まで寄せた。
 その瞬間、自転車が風のように走り去った。
「……すみません、急に」
 僕は急に腕を掴んだことに対して謝った。
「い、いえ!お気になさらず……あなたがいなかったら私どうなっていたか」
 頭を上げ、少女の顔を見る。
 白くて、透き通った肌。
 色素の薄い髪は胸の下あたりまである。
「……その制服、うちの学校の?」
 僕は気になっていたことを聞く。
 彼女が着ているセーラー服、どこかで見たことあるような気がしていた。
 それは間違っていなかったようで。
「あ、そうですよっ」
「てか、そのリボンの色、僕の学年の……」
 彼女が身に着けているセーラー服のリボンの色が僕たちの学年の色だった。
 けれど、高校三年目にもなって同じ学年の人を知らないというのはあり得るのだろうか。
 確かに中学校と比べれば人はかなり多いし、完璧に全員を覚えるのは難しいかもしれないけど、三年目なら一度は見かけたこともあるはずなのに彼女を見たことは一度もなかった。
「……ああ、私、汐瀬(しおせ)絃凪(いとな)です。あなたが言う通り、私はあなたの学校に通ってる三年です」
ㅤ同じ学校でしかも同じ学年なのに初めましてなんてあり得るのだろうか。
ㅤ疑問に思ったが、初対面の人間にずかずかとプライベートの話を聞かれたら嫌だろうから聞かないでおこう。
「そうだ!君の名前は?私名乗ったし、君も名前教えてよ」
ㅤ汐瀬さんにそう言われ、僕は名前を言った。
「……夏凪(なつなぎ)玲渚(れお)君?かっこいい名前だねっ!」
ㅤ誰かに名前を褒められるなんて初めてだ。
ㅤ女子高生特有の全てを可愛いだの素敵だの言う感じなのか。
ㅤ汐瀬さんもクラスにいたら一軍に入りそうだなんて言ったら怒られてしまうだろうか。
「ど、どうも……」
 僕が言うと汐瀬さんは少し不服そうな顔をしていた。
「同い年なんだし、そんなに堅くならないでよ~!」
「わかったよ」
 僕がちゃんと返事をすると、汐瀬さんはとても嬉しそうにしていた。
「じゃあ、これからよろしくね、玲渚君?」
 この日が僕たちの夏の始まりの合図を告げていた。