楓と氷空が元・生贄の島に行った日。
「忙しいのに後でいいでしょうに…まったく風雅の奴〜」
年末年始の準備のため多忙にしていた紅葉。
神通力の力が怪力だからと重いものを持たされていた。
(ん?あれは美晴と魁…仕事サボるなんて)
「…!!」
美晴と魁は神社の裏でキスをしていた。
慌てて隠れる紅葉。
「美晴、好きだ。もっとしていいか?」
「…でも、誰かに見つかるよ」
「構うかよ。俺たちの愛を見せつけてやろうぜ」
魁はまた美晴とキスを交わす。
(魁…大胆すぎ。人様のキスシーンはドキドキするわね。退散退散っと)
『おかえり〜』
「暇なら手伝いなさいよね!」
急いで一仕事終え、風雅のいる部屋に帰ってくると猫たちとまったりしている風雅。
「猫の手をお貸ししますニャ?」
シロコが招き猫のように前足をニャンニャン動かすと子猫たちも「にゃあ〜」とシロコの真似をはじめた。
「シロコたちはゆっくりしてて〜後でモフモフさせてね〜げへへっ〜」
ヤバい顔をする紅葉に「わかりましたニャ」と冷静なシロコ。
『ゆっくりしてるね〜』
「風雅は働け!」
紅葉が口うるさいので仕事を手伝うフリして部屋を出ていくと別室に小太郎と静香がいた。何か作業をしているようで尋ねると「白虎ストラップ」を作っていた。1cmほどの水晶玉に白と黒を紐を編んだ根付だ。
今までは楓と美晴が作っていたが楓がアヤカシの世界に行くので今後は楓の代わりに静香が作ることになった。静香は店を閉めたため時間があるので今後は小太郎を支えつつ神社で働くことになった。
「白虎ストラップは幸運のお守りなんですよ」
『じゃあ本当に幸運入れよう。今回だけだよ』
小太郎が「え?」と何かを言う前に風雅は手を伸ばしストラップの水晶玉に神通力を込めた。
満足したのか風雅は部屋を出た。
楓と氷空が帰って来たと思えばラブラブで「一体なにが…!」と思いつつも幸せそうな楓をみて紅葉もご機嫌になるのだった。
年末年始を迎え、紅葉たちは忙しくしていた。
嫉妬した風雅が赤ちゃんサイズになって紅葉に構ってもらおうとしたが忙しすぎて相手にされず、耳をペタンとし尻尾を丸めて神社をトボトボ歩いていた。
前を見て歩いておらず辿り着いた先は初代神子「梅子」の墓だ。
『あ…』
風雅は人型になると頬をポリポリした。
『もう来ないって言ったのにねぇ…そうだ、オレ紅葉を番にしたんだ。紅葉ってば面白いし生意気で物事ハッキリ言うクセに変なところ素直じゃないしキスしただけで恥ずかしがってね〜それがまた可愛くて愛しいんだよ〜』
何も言わない墓に番の自慢をする風雅。
『これは帰すよ。梅子は真面目で心配性だったから死んでもオレを心配してくれたんだよね』
墓の前に白く光る玉が現れる。
梅子の魂だ。
梅子は人の感情がわからない上に軽い風雅や西ノ島のことを心配し魂になっても西ノ島で彷徨い見守っていた。
『もう心配ないよ。オレもこの島も…だから君の行く場所行っておいで。君が生まれ変わった時には素敵になっているよ。きっと小太郎や小太郎の子孫たちがね』
梅子の魂は空へ消えていった。
バタバタとした年末年始が終わると小太郎と静香の結婚式だ。
白虎神社で行われた。
そして紅葉と楓の卒業式。
式が終わると担任の教師とクラスメイトで囁かなパーティーをやった。
紅葉と相性の悪いクラスメイトは紅葉が天界に行くと聞き、泣いてくれた。
実は仲良くなれたのかもと思った。
翌日、紅葉と風雅は天界へ旅立つ。
「紅葉、忘れ物ない?」
「うん、大丈夫だよ!」
天界では食べなくても生きていけるそうだが、天界に行っても暫くは人間の体らしいので食べ物を沢山詰めたり、街で買ったものや家族からの誕生日プレゼントなど大切な物は持って行くことにした。
紅葉は風雅から贈ってもらった神子服を来て、中庭に出る。
「紅葉…達者でな…うぅっ…」
「パ…お父さん。迷惑ばっかかけてごめんなさい」「お前は悪くない。今では白虎の神子で番なんて白神家の誇りだぞ」
「神様たちに失礼にならないようにね。いつでも戻ってらっしゃい」
「お母さん…うん!」
「小太郎兄ちゃん、幸せにね!私のために色々我慢させてごめん」
「紅葉は楽しい家族だよ、いつまでもね。紅葉こそ幸せになりなよ」
「お前が白虎の嫁なんて明日、地球滅びそうだな」
「司兄ちゃん!…赤ちゃん産まれたら抱かせてね」
「おう」
「美晴も魁と上手くやりなよ」
「紅葉姉もね!」
「紅葉…なんだか大事な片割れがいなくなるようで寂しい…私はアヤカシ界に行くから会う機会が少なくなるけど氷空が島に自由に行っていいって言ってくれたの。街にも連れ行ってくれる約束もしたのよ」
「そっか。体、せっかく良くなったんだから大事にしてよね。体弱いのは私のせいだけどさ」
紅葉と楓は涙を流しながら抱きしめ合う。
猫たちは紅葉に懐いたパフェとパフェが大好きで離れたくないチョコを天界に連れて行くことになった。
チョコは楓が名付けたこともあり、紅葉はなんだか楓と一緒にいる気分になれた。
シロコたちは白神家で飼いつつ神社の看板猫や介護施設でふれあいの仕事をしてもらう。
子猫と離れるのを寂しそうにしているシロコに風雅は離れていても繋がれるように以心伝心…テレパシーの力を与え、お互いの様子をわかるようにしてくれた。
『白神家に住んで色々な事を知り、楽しい日々を過ごさせてもらった。引き続き、島を守る役目を果たそう。紅葉はたまに連れて帰って来るからサヨナラはなしでね☆』
泣いている紅葉の肩を引き寄せる。
『行こうか』
風雅は白虎の姿になり紅葉とパフェとチョコ、荷物を背中に乗せた。
先ほどまで泣いていた紅葉はモフモフ白虎を見た途端、涙は引っ込みテンション高くなった。
これには家族たちもドン引きだが「最後まで紅葉らしいな」と大笑いしながら見送った。
「また会おうね〜夏祭りに帰ってくる!りんご飴に焼きそばにそれから〜…」
紅葉と家族は笑顔で手を振った。
お互いの姿が見えなくなるまで。
━━━━天界。
「ここが天界?」
『うん、まずは神に挨拶しなきゃね。おいで』
差し出された手を取る。
神様に挨拶が終わり、少し歩くも初めて来た天界にパクパクしていた紅葉。
連れて行かれた場所は【白虎神殿】
風雅が住処にしている場所だ。
「デカ過ぎ…」
神殿は西ノ島と同じかそれ以上の大きさで紅葉はビビってしまった。
『さてここがオレの寝室。今日から紅葉の部屋だよ』
「…………」
広い部屋にもう言葉を失っていた。
風雅はフッと笑うと紅葉をお姫様抱っこしベッドまで運んだ。
「風…んっ!」
キスをされ、思わず瞑っていた目を開けると風雅はまるで獲物を狙う獣の目をしていた。
紅葉はドキドキした。
『紅葉…永遠を共に誓い合おうか』
「……」
逃げられないと思った紅葉は覚悟を決めた。
紅葉は風雅に心も体を捧げた。
風雅と永遠の時と愛を誓い合う。
【完】
番外編①【紋十郎の願い】
白神家当主・白神紋十郎。
紋十郎には子供が5人いる。
長男の小太郎、次男の司、長女の紅葉と次女の楓、そして末の三女、美晴だ。
紅葉が産まれた時のこと。
紅葉の祖父にあたる紋十郎の父親から紅葉の霊力がかなり強いと教えられた。
霊力が強弱くらいは島に住む者なら判別つくので紅葉の霊力が強いのはわかるのだが紅葉の祖父が知る限りはかなりなのだろう。
アヤカシから産まれて間もなく紅葉を番にと打診が何度もあった。
さすがに産まれたばかりだからと断った。
白神家は西ノ島の長を務めているゆえ、屋敷に挨拶やらトラブル、話し合いなどアヤカシが訪れることがある。
白神家にアヤカシが訪れると紅葉は突然大泣きを始めた。双子の楓も紅葉につられて泣いてしまう。
アヤカシを感知したのだろう。
紋十郎と直美は管理している白虎神社の白虎様に「紅葉を守ってほしい」と毎日祈った。
ある時、紅葉を神社に連れて行ったが目を離した隙にいなくなっていた。
離した隙にどうやらアヤカシに襲われたらしい。
アヤカシの中には強い霊力を持つ女性を襲うことで怪我を負わせ、傷モノにし「自分の番だぞ」と印のようなものをする。
紅葉を襲ったアヤカシは紅葉によるとわからないらしいが「髪が長いへんてこな服の人」に助けてもらったと言う。
良心的なアヤカシなのだろうか?
いつか紅葉はアヤカシの番になるだろうがその助けた人とやらの番になら歓迎したいと紋十郎は思った。
襲われてからは小太郎や司が紅葉を守るようになり、アヤカシには襲われたから暫くはそっとして欲しいと伝えるとアヤカシ達も聞き入れた。
紅葉はアヤカシ嫌いの強気でハッキリ物を言う性格になった。
雑で態度や口が悪いのは紅葉なりにアヤカシから身を守るためだろうと紋十郎たち家族は注意しなかった。
中学生になると「そろそろ…」とアヤカシから打診も絶えない。紅葉に迫ったり、トラブルになることや紅葉だと勘違いしたアヤカシが楓をしつこくつきまとったりした。
紅葉は強気な性格でも耐えられず毎日泣いていた。
楓のことなら尚更だ。
島の長女は18歳になるとアヤカシに番としてアヤカシの世界へ行くことがほとんどだ。
しかし紅葉は18になっても番を拒否していたので遂にアヤカシが怒りだした。
そんな時に紅葉から「虎ちゃんの生贄に行きたい!虎ちゃんに食べられたい!!」と生贄を望んだ。
生贄は1年に一度。
早ければ翌日や数ヶ月で何故か返されるらしい。
紅葉も家族も疲弊していたので一時的にアヤカシから離せればと了承し出すことにした。
紅葉を番にと望むアヤカシ達には「紅葉の頭を冷やさせる」と言って黙らせた。
生贄に出した翌日、紅葉は戻って来た。
白虎様を連れて。
白虎様は風雅と名乗り、紅葉は神子になったと。
紋十郎たち家族は安堵した。
神子になればアヤカシは大人しくなるし何かあれば風雅に守ってもらえるだろうと。
相手は白虎様だというのに、あいかわらず強気な態度でヒヤヒヤしたがそこが気に入られたらしい。
父親としては娘を盗られた気分で複雑だが……
番外編②【風雅から見た紅葉】
神からの命により朱雀、玄武、白虎、青龍の四神は東西南北の島の監視や管理をすることになった。
神の神子が清らかで霊力の強い乙女を神子の継ぐ子として力を分けた。
西ノ島の初代神子は「梅子」。
東ノ島担当の青龍の十六夜は神子と番となり婚姻関係を結んだらしく幸せそうだったのでオレも羨ましくなり梅子と恋愛しょうとしたが上手くいかなかった。
恋愛なんてしたことのないオレは不貞腐れて天界に戻ったが梅子は数年後、良縁を結んだ。
それから暇つぶしにと1年に一度、若い娘を生贄に捧げさせ遊んでいた。
娘たちは「生贄」というものに恐れ、人ならざる見目のオレに更に恐怖している姿をみて楽しかった。
それを数百年ほど楽しんでいた時だ。
オレを恐れないどころか唾を吐き、神を冒涜する女が現れた。
オレは玄武ほど冷静ではないが、四神の中ではわりと穏やか方だと思っているのだが、そんなオレを一瞬で強い怒りを感じさせた。
神獣姿になり食ろうてやろうとすれば喜ぶ女。
自らオレの口に飛び込むが煩い上に不味い。
ヤバすぎる女に怒りが消えてしまった。
目を覚ませば殴ろうとし、キスをすれば女の顔をする実に面白い女だ。
神通力も僅かながらあるし生意気で面白い女を手放したくなくて軽いノリで神子にした。
「紅葉」と名乗り、紅葉はアヤカシ関係でかなり苦労しているようで家族から心配されていた。
白神家は家族仲も良好で白神家に住むのは居心地が良かった。
他の生贄とは違い、神だろうが巨大な猛獣である神獣姿すら恐れず喜ぶ紅葉の強気な性格を気に入っていたし、文句を言いながらオレの世話をしてくれて、たまに優しいのも可愛くて愛しい。
「アヤカシに渡したくないなぁ…紅葉はオレだけが独占していいんだから」
この気持ちはなんだろうね?
神子への愛?
紅葉とかいう面白い玩具への愛?
それとも…?
番外編③【風雅はじめての……】
西ノ島のハロウィンイベントをを控えた2日前。
白虎神社で栗拾いをした日、風雅はある事を思いつき司から栗を少し分けてほしいと頼んだ。
翌日のハロウィン前日に街に出掛けた。
『まずは本かな?楓が興味深そうに読んでいたのはたしか…』
次に来たのは製菓専門店。
先ほど購入した本のページを指し店員に探してもらい購入。
買い物が終わった後は十六夜が住処にしていた小さな孤島へ。
西ノ島と同じような結界が張ってあり、人間には見えない仕様だ。
以前、風雅と紅葉たち白神家が宿泊した場所でもある。
島には大きい屋敷があり、まっすぐキッチンに進む。
腕を捲り『さてと…』テーブルに買ってきたものを出す。
風雅は紅葉のために「モンブラン」を作ってあげたいと考えた。
『オレが誰かのために何かしてあげたいとか、そもそも誰かを想うなんて考えられなかった。凄いね、紅葉も白神家も』
「女の子は好きな人のために手料理を作ったりするんです」
「ラブレター渡したりね〜」
以前、楓たちに恋愛相談したところそんな話しを聞いた。
東西南北の島は閉鎖された島のため時代遅れだ。
霊力のない人間住む「街」のようなスマホやパソコンなど電子機器や電話などはないので恋愛に限らず昔ながらの手法が多い。
風雅は紅葉ならラブレターとかの紙きれよりも食だろう手料理を選んだ。
紅葉と楓の共通の親友である亜由美にアドバイスを参考にした。
土台のタルトやスポンジは市販だが初めての料理どころかお菓子作りに苦戦していた。
紅葉が風雅の番になるか決める日。
紅葉は風雅を受け入れてくれた。
口では『逃さない』だの『素直に好きって言えば』など笑いながら自信ありますよ、な態度だったが内心はドキドキしていた。
紅葉を神子や番にしたのは神としての傲慢だったし昔の自分なら何とも思わなかった。
今は紅葉の気持ちを大切にしたいと想うからこそ、自分の傲慢さに反省した。
『紅葉は変なところ素直じゃないし、たまには傲慢なオレがでてきてもいいかな?……なんてね♪』
番外編④【3匹のにゃんこ】
「モミィ…好きにゃ」
「モミィ、きらいにゃ」
紅葉が風雅と一緒に天界へ行ってから少し経った。
紅葉は風雅が住む白虎神殿でまったりしていた。
「モミィ、あそぼ!」
「パフェ、だめ!」
西ノ島から連れて来た三毛子猫パフェ♀と白黒子猫のチョコ♀は成長したからか、天界の不思議な影響かわからないがカタコトながら少し喋るようになった。
紅葉を「モミィ」、風雅を「フゥー」と呼ぶ。
パフェは紅葉が名付けたからか懐きまくっていた。
逆にパフェが大好きなチョコはパフェが紅葉に懐くのが気に入らないらしく、嫌っていた。
嫌っているわりにオヤツをあげれば食べ、猫じゃらしで遊んであげると楽しそうにしているし撫でたり抱っこも嫌がらない。
パフェが絡まなければ気にしないようだ。
『紅葉、大人しいね』
「風雅。慣れない場所だから仕方ないでしょ。神様ばっかの世界じゃ好き勝手できないわよ」
暇でダラダラゴロゴロしている紅葉に声を掛けたのは今日の仕事を終えた、風雅。
「フゥー、おかえりにゃ」
「フゥー、パフェ、近づく、ダメにゃ」
『ただいま〜チョコは相変わらずだね〜』
猫たちの頭を撫でる風雅。
風雅は猫を撫で終わると紅葉に飛びつくように抱きしめた。
『おかえりのチューは?』
「……」
紅葉が恥ずかしそうに触れるキスをすると満足そうにしていた。
「まだ仕事かかりそう?」
『うん。1人にさせてごめんね〜』
「仕方ないわよ。本当は掟破りなのに無理させたんだから」
紅葉は神子だから風雅次第だったが、掟により島から出ることを許されない住人たち。
風雅が白神家を一度だけ街へ外出許可貰いに行った際に不真面目な風雅に仕事をする事を条件に神から許された。
天界に戻った風雅は真面目に仕事をしていた。
風雅が不真面目だと紅葉が周りから色々言われ兼ねないので、紅葉を守るためほんの少しだけ真面目になったんだとか。
紅葉としては寂しいが自分や自分の家族のために動いてくれる風雅の優しい気持ちには感謝している。
風雅の仕事は紅葉には難しいので、せめて仕事終わりに甘える風雅を受け入れるくらい。
『もう少しで仕事に余裕できるから天界を案内するよ。つまらないでしょ?』
「パフェとチョコがいるから大丈夫よ。それに…」
風雅は疲れたのか赤ちゃんサイズの神獣(小)になり、ぺたーんとヘタって眠ってしまう。
ヨダレと猫吸いならぬ虎吸いを我慢し、風雅をベッドに運ぶとパフェとチョコは風雅の体を枕にして気持ちよさそうに眠っていた。
「つまらなくないよ。こんな可愛い光景が見れるならね!まさに眼福〜〜!!」
最近の紅葉は3匹のモフモフ団子を眺めては興奮しまくることにハマっていた。