時が経ち、高校二年生の始業式になった。
あと三十分ほど立てば、学校で支給されているタブレットに新たなクラスが配信される。
友達と一緒のクラスになれるかな、と考えながら歩いていると、誰かとぶつかってしまった。
ドン!と鈍い音がして、僕の足元にメガネが落ちた。
「ごめんなさい! よそ見をしていて……」
メガネを拾い、ぶつかった男の子の方を見た。
あれ、この顔どこかで──と、頭の中にある記憶が開きかけた、その時だった。
「どこ見て歩いてんだよ!」
チッと舌打ちを残し、その男の子は僕からメガネを奪うように取ると去ってしまった。
その男の子の姿を見送りながら、僕はその場にしばらく立ち尽くすのだった。
♦︎
え……なんで。そう漏れたかけた言葉をなんとか飲み込んだ。
前の席に、先程ぶつかってしまった男の子が座っていた。今さっきのメガネが掛けられていたから、すぐに分かった。
彼に気づかれないように静かに座る。ほっと一息を吐いたその時だった。
「よォ、さっきぶりだな」
正面の方を見ると、男の子が僕に向かい満面の笑みを浮かべていた。にやりとした、悪魔のように黒さが滲んだ笑みである。
「さ、さっきぶりですね。先程はすいませんでした……」
「こんなぼやっとした奴が碧の弟なんだよ」
「え、」
なんでそのことを、と言おうとしたが、言葉が途切れてしまった。丁度、先生が来たのだ。
先生が軽く自己紹介したあと、僕らの番になった。
あ行の苗字から順番に自己紹介していき、僕の前の男の子の番になる。
「高橋楓っす。よろしく」
高橋くんは面倒くさそうに告げたあと、自分の番が終わったとばかりに自分の席に着いた。
先生に促され、震える拳を握り締め、立ち上がる。
「高嶺雪都です。好きな教科は国語です。よろしくお願いします」
つっかえつつも、なんとか自己紹介を終える。やはり、何度経験しても人から注目を集めるのは苦手だ。
ほっと一息吐いていると、「なぁ」と前の方から声がかかった。
「なんであんたが弟なの」
「え、」
「あんたが碧のお気に入りなんて気に入らない」
「お気に入り……?」
お気に入り、という言葉に違和感を覚えた。確かに、僕は碧さんの弟だ。でも、お気に入りって一体なんだろうか。
疑問に思ったことをぶつけようとしたら、チャイムが鳴ってしまった。どうやらこのまま入学式に行くらしい。
出席番号に並ぶ時に、またもや高橋くんがぼそりと僕に囁いてきた。
「お前に現実を見してやる。明日、八時に星川駅前集合な」
それだけ告げると、満足したのか前を向いてしまった。
その後も何度か声をかけるが、応答しではくれなかった。
ぼんやりとしたまま入学式を終えて、家に帰る。碧さんはまだ仕事をしているらしく、帰るのは日付を回るだろうとのことだった。
彼のことについて色々聞きたいことはあったけど、帰りが遅くなるのならば仕方がない。疲れているであろう碧さんに質問するのも申し訳ないし。先程、高橋くんについて知っているのかとLINEも送ったし、大丈夫だろう。
不安が残りつつ、眠りにつくのだった。
あと三十分ほど立てば、学校で支給されているタブレットに新たなクラスが配信される。
友達と一緒のクラスになれるかな、と考えながら歩いていると、誰かとぶつかってしまった。
ドン!と鈍い音がして、僕の足元にメガネが落ちた。
「ごめんなさい! よそ見をしていて……」
メガネを拾い、ぶつかった男の子の方を見た。
あれ、この顔どこかで──と、頭の中にある記憶が開きかけた、その時だった。
「どこ見て歩いてんだよ!」
チッと舌打ちを残し、その男の子は僕からメガネを奪うように取ると去ってしまった。
その男の子の姿を見送りながら、僕はその場にしばらく立ち尽くすのだった。
♦︎
え……なんで。そう漏れたかけた言葉をなんとか飲み込んだ。
前の席に、先程ぶつかってしまった男の子が座っていた。今さっきのメガネが掛けられていたから、すぐに分かった。
彼に気づかれないように静かに座る。ほっと一息を吐いたその時だった。
「よォ、さっきぶりだな」
正面の方を見ると、男の子が僕に向かい満面の笑みを浮かべていた。にやりとした、悪魔のように黒さが滲んだ笑みである。
「さ、さっきぶりですね。先程はすいませんでした……」
「こんなぼやっとした奴が碧の弟なんだよ」
「え、」
なんでそのことを、と言おうとしたが、言葉が途切れてしまった。丁度、先生が来たのだ。
先生が軽く自己紹介したあと、僕らの番になった。
あ行の苗字から順番に自己紹介していき、僕の前の男の子の番になる。
「高橋楓っす。よろしく」
高橋くんは面倒くさそうに告げたあと、自分の番が終わったとばかりに自分の席に着いた。
先生に促され、震える拳を握り締め、立ち上がる。
「高嶺雪都です。好きな教科は国語です。よろしくお願いします」
つっかえつつも、なんとか自己紹介を終える。やはり、何度経験しても人から注目を集めるのは苦手だ。
ほっと一息吐いていると、「なぁ」と前の方から声がかかった。
「なんであんたが弟なの」
「え、」
「あんたが碧のお気に入りなんて気に入らない」
「お気に入り……?」
お気に入り、という言葉に違和感を覚えた。確かに、僕は碧さんの弟だ。でも、お気に入りって一体なんだろうか。
疑問に思ったことをぶつけようとしたら、チャイムが鳴ってしまった。どうやらこのまま入学式に行くらしい。
出席番号に並ぶ時に、またもや高橋くんがぼそりと僕に囁いてきた。
「お前に現実を見してやる。明日、八時に星川駅前集合な」
それだけ告げると、満足したのか前を向いてしまった。
その後も何度か声をかけるが、応答しではくれなかった。
ぼんやりとしたまま入学式を終えて、家に帰る。碧さんはまだ仕事をしているらしく、帰るのは日付を回るだろうとのことだった。
彼のことについて色々聞きたいことはあったけど、帰りが遅くなるのならば仕方がない。疲れているであろう碧さんに質問するのも申し訳ないし。先程、高橋くんについて知っているのかとLINEも送ったし、大丈夫だろう。
不安が残りつつ、眠りにつくのだった。