……やってしまった、と思った。
 雪都くんに触れられた瞬間、心臓が大きく高鳴った。
 その感情には覚えがあった。決して、義理の弟には抱いてはいけない想いが芽生えたのだ。

 雪都くんに合わせる顔がない。
 何気なく天井に視線を移したその時だった。

 部屋の扉が二度ノックされたのだ。出る気になれなくて、無視を決め込む。
 すると、ドアの向こうで雪都くんの声がした。反射的に扉の方に向かう。その際、ベッドの淵に躓きかけてしまった。

「ごめん、ちょっと眠ってた」

 咄嗟に嘘が口をついて出た。まさか君で抜いていただなんて、口が裂けても言えない。
 その後、ひたすらに雪都くんは謝罪の言葉を口にしてくれる。
 しょんぼりとした表情を浮かべる雪都くんの姿を見て、思わず彼の頭に手を乗せてしまった。
 俺が原因だから、とぼやかして言う。途端に雪都くんの表情が明るくなった。
 俺が笑わせるためにおどけたように、デコピンをする仕草をすると、更に雪都くんは表情を緩めた。
 ──可愛い。
 自分の中に仄かに芽生え始めた感情を無視して、「なんだい、弟よ」とまたおどける。
 そうだ。雪都くんは弟。義理とはいえ、弟なのだ。そう、自分に言い聞かせるかの様に。
 すると、雪都くんは上目遣いで俺のことを「お義兄ちゃん」と呼んでくれた。
 自分の胸の鼓動がどんどん早くなっていくのが分かる。

「っ……! ズルい……」

 俺が思わず漏らした声に、雪都くんが不思議そうな表情を浮かべた。
 その後、「寝るから」と適当な理由を並べ、部屋の扉を閉めた。

「可愛すぎんだろ」

 扉に背中をつけると、ゆるゆると床に座る。
 もう自分の気持ちを無視することはできない。そう悟った俺は、この後どうするべきかと考えるのだった。