「やってしまった……」

 あの出来事があってからぼんやりとしたままシャワーを浴びて、今出てきたところだ。
 髪を乾かす気にはなれなくて、少し湿った状態でベットに寝転がる。

 昔から、僕は他人に干渉し過ぎてしまうことがあった。良く言えば誰にでも手を差し伸べることができる。悪く言えば、お節介といったところだろうか。
 昔から、そのお節介で散々な目になっていたというのに。またやってしまった。
 自己険悪に陥ってしまう。
 まだ二回しか会っていないよく知らない義理の弟にあんなことをされたら誰だって怒るはずだ。
 ──嫌われた、だろうか。
 考えれば考えるほど、負のスパイラルに陥っていくのが分かる。
 そんな時は、碧さんに聞いてみるのが一番だろう。やっぱり、本人に聞いてみないことにはなにもわからない。
 意を決して、隣のドアをノックした。……返答は、返ってこない。

「雪都です。先程のことでお話がしたくて来ました」

 少し声を張り上げた。すると、中からなにかを倒す音などが聞こえたあと、「はーい」と碧さんの声が返ってきた。

「ごめん、ちょっと眠ってた」

 確かに、服装や髪が少し乱れている。碧さんは寝相が悪いのだろうか。

「今さっきのこと、すいませんでした。碧さんの言うことも聞かず無理やりあんなことをして……すいませんでした!」

 勢いよく頭を下げる。

「顔を上げて、雪都くん」と碧さんの優しい声が降ってきた。

「その、今さっきのは俺自身が原因だから。こっちこそ声を荒げてごめん。怖かったよね」
「いえ、僕が悪いんです。碧さんはなにも悪くありません。本当にすいませんでした」
「いや、俺がたっ──いや、なんでもない。これ以上謝ったらデコピンするよ?」

 そう言うと、碧さんはデコピンをする仕草をした。

「分かりました。これ以上謝りません!」
「ふふ、いいこだ」

 またもや碧さんの大きな手のひらが僕の頭を撫でた。ひんやりとしていて、とても気持ちがいい。

「あとずっと思ってたんだけどさ、敬語をやめにしない? 俺たち、兄弟なんだし」
「分かりましっ──分かった」

 年上の人にタメ口を使うのは初めてで、ドキドキしてしまう。
 
「なんだい、弟よ」

 おどけた様に、碧さんが言った。妙に芝居がかっていて、とてもおもしろい。
 
「なに? お、お義兄ちゃん?」

 僕も負けじと言葉を返す。かなりの棒読みになってしまった。

「っ……! それはズルい……」

 何故か碧さんは僕に背を向けてしまった。なにがズルいんだろうか。
 頭の中に沢山のハテナマークを浮かべていると、

「そろそろ寝ないと。俺、明日仕事があるから」
「あっ、そうなんだね、お休みなさい!」
「お休み」

 勢いよく扉が閉められた。
 なんだかよく分からないけど、ちゃんと謝れてよかった。あの状態で一晩は迎えたくはなかったから。
 湿った髪を乾かすべく、洗面所へと向かうのだった。