「わぁ、広い……!」
今僕らがいるのは、貴志さんたちの実家だ。僕でも知っている高級住宅地の中に聳え立つマンションの最上階にいる。
どうやら最上階はワンフロア全部が貴志さんのものらしく、エレベーターから降りると同時に玄関が見えた。
「いらっしゃい、二人とも!」
まだ朝早い時間帯だからか、寝癖が何個かある状態で、貴志さんが僕らを迎い入れてくれた。
庶民感丸出しで当たりをきょろきょろとしながらリビングに向かうと、シックな椅子に腰掛けて碧さんがコーヒーを飲んでいた。淹れたばかりなのか、煙がもくもくと上がっている。
「お、おはようございます、碧さん!」
鞄を握りしめて、深々と頭を下げた。
「おはよう、雪都くん」
寝起きとは思えない優雅な微笑みを返してくれる。
「疲れただろう? もしよかったら、その荷物持つよ」
「だ、大丈夫です! 軽いので一人で持てます」
アイドルに持たせるわけにはいかないと遠慮したけど、すっと碧さんの表情が翳った。
「まだ、俺のこと信用できないよね」
しゅんと肩を落とし、儚げボイスで碧さんが言った。
なぜ荷物を持つ持たないで信用という言葉が出てくるのかよく分からないけど、碧さんが落ち込んでいるならこのままでいいわけがない。
「じゃあ、荷物お願いしてもいいですか? 碧さん」
「勿論! 雪都くんのお願いごとならなんでもするよ」
先程までの雰囲気が嘘だったかのように微笑んで、「こっちだよ」と部屋を案内してくれる。
もしかして今さっきのは演技だったのではないかと勘違いしまいそうになるほどの変わり身だ。
まだ二回しか会っていないからか、碧さんがどんな人なのかまだよく分からない。普段、テレビの中で見ていた人だから、尚更。
多分だけど、テレビの中を通して碧さんを見るのと実際に会うのは違う気がした。
「どうしたの、雪都くん」
碧さんが不思議そうに僕のことを見つめていた。いけない、考え事に浸ってしまったようだ。
「なんでもありません、碧さん」
先程の考えを頭の中から振り払うと、碧さんの元へ駆け寄るのだった。
♦︎
自分の部屋として案内されたのは、碧さんのとなりの部屋だった。
『Yukito』のネームプレートがぶら下がっている扉を開けると、碧さんたちセレクトの家具が揃った部屋があった。
「わぁ、自分の部屋だ……!」
母さんとの二人暮らしの時は1LDKで自分の部屋なんてなかったから、テンションが上がってしまう。
そのままベッドへダイブして、試しにごろごろと寝転がってみる。ふかふかだ。
ひたすらベッドを堪能したあと、部屋の中をぐるりと見渡す。全体的に黒で統一された家具や壁は自分好みのものだ。
「ふふっ、雪都くんに喜んでもらって俺も嬉しいよ」
「はっ……! ご、ごめんなさい!」
碧さんが居るのをすっかり忘れていた。子供っぽいって思われただろうか。顔から火が出そうなほど顔が真っ赤になっていくのが分かる。
「いいよ、気にしないで。はしゃいでいる雪都くんも可愛いし」
この前初めて会った時から思っていたけど、碧さんは事あるごとに僕のことを可愛いと言っている気がする。
僕としては、可愛いよりもカッコいいと言われたいけど、国宝級イケメンである碧さんにとっては僕はペットとかにしか見えていないんだろう。
なんと答えたらいいのか考えあぐねていると、どこからかスマホの着信音が聞こえてきた。
「俺だ。え、このあと打ち上げ? 日程間違えていたって? 歩さんはおっちょこちょいだなぁ」
誰かと軽く会話したあと、申し訳なさそうに僕に近づいてきた。
「ごめん、このあと用事が出来たみたい。あー、行きたくない。雪都くんともっと居たい」
駄々をこねはじめる碧さんを宥める。
「絶対に行った方がいいですよ! ほら、芸能界って人脈が大事っていうじゃないですか! 僕とはいつでも会えますし!」
お節介だったかな、と思いつつ、力説する。
「雪都くんにそう言われたら行かないわけにはいかないね。絶対夜までには帰ってくるからね」
「いってらっしゃい、雪都さん!」
玄関まで碧さんを送り、リビングに戻るのだった。
今僕らがいるのは、貴志さんたちの実家だ。僕でも知っている高級住宅地の中に聳え立つマンションの最上階にいる。
どうやら最上階はワンフロア全部が貴志さんのものらしく、エレベーターから降りると同時に玄関が見えた。
「いらっしゃい、二人とも!」
まだ朝早い時間帯だからか、寝癖が何個かある状態で、貴志さんが僕らを迎い入れてくれた。
庶民感丸出しで当たりをきょろきょろとしながらリビングに向かうと、シックな椅子に腰掛けて碧さんがコーヒーを飲んでいた。淹れたばかりなのか、煙がもくもくと上がっている。
「お、おはようございます、碧さん!」
鞄を握りしめて、深々と頭を下げた。
「おはよう、雪都くん」
寝起きとは思えない優雅な微笑みを返してくれる。
「疲れただろう? もしよかったら、その荷物持つよ」
「だ、大丈夫です! 軽いので一人で持てます」
アイドルに持たせるわけにはいかないと遠慮したけど、すっと碧さんの表情が翳った。
「まだ、俺のこと信用できないよね」
しゅんと肩を落とし、儚げボイスで碧さんが言った。
なぜ荷物を持つ持たないで信用という言葉が出てくるのかよく分からないけど、碧さんが落ち込んでいるならこのままでいいわけがない。
「じゃあ、荷物お願いしてもいいですか? 碧さん」
「勿論! 雪都くんのお願いごとならなんでもするよ」
先程までの雰囲気が嘘だったかのように微笑んで、「こっちだよ」と部屋を案内してくれる。
もしかして今さっきのは演技だったのではないかと勘違いしまいそうになるほどの変わり身だ。
まだ二回しか会っていないからか、碧さんがどんな人なのかまだよく分からない。普段、テレビの中で見ていた人だから、尚更。
多分だけど、テレビの中を通して碧さんを見るのと実際に会うのは違う気がした。
「どうしたの、雪都くん」
碧さんが不思議そうに僕のことを見つめていた。いけない、考え事に浸ってしまったようだ。
「なんでもありません、碧さん」
先程の考えを頭の中から振り払うと、碧さんの元へ駆け寄るのだった。
♦︎
自分の部屋として案内されたのは、碧さんのとなりの部屋だった。
『Yukito』のネームプレートがぶら下がっている扉を開けると、碧さんたちセレクトの家具が揃った部屋があった。
「わぁ、自分の部屋だ……!」
母さんとの二人暮らしの時は1LDKで自分の部屋なんてなかったから、テンションが上がってしまう。
そのままベッドへダイブして、試しにごろごろと寝転がってみる。ふかふかだ。
ひたすらベッドを堪能したあと、部屋の中をぐるりと見渡す。全体的に黒で統一された家具や壁は自分好みのものだ。
「ふふっ、雪都くんに喜んでもらって俺も嬉しいよ」
「はっ……! ご、ごめんなさい!」
碧さんが居るのをすっかり忘れていた。子供っぽいって思われただろうか。顔から火が出そうなほど顔が真っ赤になっていくのが分かる。
「いいよ、気にしないで。はしゃいでいる雪都くんも可愛いし」
この前初めて会った時から思っていたけど、碧さんは事あるごとに僕のことを可愛いと言っている気がする。
僕としては、可愛いよりもカッコいいと言われたいけど、国宝級イケメンである碧さんにとっては僕はペットとかにしか見えていないんだろう。
なんと答えたらいいのか考えあぐねていると、どこからかスマホの着信音が聞こえてきた。
「俺だ。え、このあと打ち上げ? 日程間違えていたって? 歩さんはおっちょこちょいだなぁ」
誰かと軽く会話したあと、申し訳なさそうに僕に近づいてきた。
「ごめん、このあと用事が出来たみたい。あー、行きたくない。雪都くんともっと居たい」
駄々をこねはじめる碧さんを宥める。
「絶対に行った方がいいですよ! ほら、芸能界って人脈が大事っていうじゃないですか! 僕とはいつでも会えますし!」
お節介だったかな、と思いつつ、力説する。
「雪都くんにそう言われたら行かないわけにはいかないね。絶対夜までには帰ってくるからね」
「いってらっしゃい、雪都さん!」
玄関まで碧さんを送り、リビングに戻るのだった。