「…………クロル?」
「あれ、リリア。どうしたの? 眠れないの?」
「なんか、昼間にたくさん寝たせいか眠くなくて。そう言うクロルこそ、何しているの?」
「明日着く街の地図を確認しているんだ。迷わないように予習しようと思って」
「へー。クロルはすごいねぇ」
「そんなことないよ。こういうのが好きなだけ」
「……隣、座ってもいい?」
「もちろん、どうぞ」
「……ねぇ。クロルはさ」
「うん?」
「……運転手を辞めて、どこかの街で暮らそうとは思わないの?」
「……どうかな。もう二年近くこの仕事をやっているし、今さら辞めるのもね」
「今日、イサカさんに『ここに住まないか?』って言われていたでしょ? 本当はそうしたかったのかなって。私やポックルっていうお客さんがいるから、それで遠慮して断ったのなら、その……悪いなぁって思って」
「それは違うよ。本当に、僕には無理だと思ったんだ。確かにあのゲームは楽しかったけれど……一日でこんなに疲れるのに、週に三日もあんなことするなんて、ちょっと大変だよね」
「……ごめんね。私、本当は……クロルが断ってくれて、嬉しかったんだ。でもそれって、自分のことしか考えてないなぁって、反省したの」
「……そんなこと気にしていたの?」
「そっ、そんなことって……」
「それで眠れなかった、とか?」
「……ああもう、そうだよ! だからね、これからもしクロルが『住みたい!』って思える街があったら、遠慮なく言ってね。私やポックルのことは気にしないで。わかった?」
「……うん、ありがとう。……はは」
「笑わないでよ! 真剣に考えたのに!」
「ごめんごめん。リリアは本当に……真っ直ぐだなぁって思って」
「……馬鹿って言いたいの?」
「いや、褒めているんだよ」
「……ほんとに?」
「ほんとにホント」


 ……そんなやり取りを、隣の車両で聞いていたポックルが、

「……青いニャ」

 ベッドの上に丸まりながら、そう呟いて。
 今宵の列車は、まだまだ灯りが消えそうにありません。