今から二百年前――

 大きな大きな、世界中を巻き込んだ戦争が起こりました。
 空は淀み、海は濁り、大陸と呼ばれた土地に、巨大な穴が生まれました。
 やがて、その穴に水が溜まり、大きな大きな湖ができました。

 そして、生き残った人類は、こんな決め事をしたのです。

「もう二度と争わないよう、国籍や肌の色ではなく、自分の生きたいルールで生きられる街に住むことにしよう」

 人々は湖の周りに様々なルールを持つ街を三百六十五箇所、造りました。
 さらに、街と街との間には、雲にも届くほど高くて頑丈な壁を設け、街同士が争うことがないようにしました。

 さて、ここで困ったのが街と街を行き来する方法です。
 自由に行き来することが出来てしまえば、壁を造った意味がありません。
 けれど、街を出たいと思った時に手段がないというのも、不満や怒りを生む原因になり得ます。

 人々は考えました。
 そうして、湖をぐるりと一周する線路を一本、造りました。
 時計回りの、一方通行の列車です。

 列車の数は、街の数と同じ三百六十五台。
 それらが毎日一つずつ、街から街へ移動します。

 列車が発車するのは、到着した翌日の午後五時。
 つまり、一つの街に停車するのは約一日半。
 街から出たいと思ったら、その列車に乗ることができます。

 しかし、同じ街に戻って来たくても、それは全ての街を一周した二年後になってしまいます。
 それでもよいのであれば、住む場所を変えてもよいとしたのです。
 その列車は、『クレイダー』と名付けられました。
 

 これは、その中の一つ。
 クレイダー九十九号のお話です。