国内最大手のストックウェル商会。
 その代表の息子であるロアムが俺を訪ねてデロス村へとやってきた。

 確か、商会へ退職の挨拶に行った際はまだコービー代表の助手っていう立場でまだまだ見習いだったはず。
 だが、今日はコービーさんの姿はない。
 つまり、彼は完全にこの場を息子のロアムに任せたというわけか。

 そんな彼のサポート役として同行している商人たちは、商会でも腕利きで知られるベテランばかりで、いかなる状況にも適切な対応ができるようスタンバイしている。いずれは商会トップとして父の後を継ぐロアムのデビュー戦を失敗に終わらせないよう万全の態勢で挑んでいるようだな。

 ――まあ、俺は別に細かくグダグダと注文をつけるなんてない。
 彼にはもっとリラックスしてもらいたいが……そうも言っていられないか。

 とりあえず、場所をラッセル村長の家に移して詳細を聞くことに。
 まずテーブルに座って彼が口にしたのは、

「ストックウェル商会は全面的にハリスさんの魔草研究を支援していきたいと考えています」

 俺にとってはとてもありがたい内容だった。

「本当にいいのか? 聖院にあった農場はなくなり、また一からすべてをやり直さなくてはいけない……正直、以前のような成果が得られる保証はないぞ」

 研究のトップだったグスタフ先生はすでに亡くなっている。アルラウネのリーシャがいてくれるとはいえ、俺にどこまでやれるのかまったく不透明の状況だ。

 包み隠さず、苦しい現状をありのまま伝える。
 しかし、ロアムの心は揺るがない。

「僕はハリスさんを信じています。あなたならきっとグスタフさんが叶えられなかった夢を実現できますよ」
「だといいが……まあ、俺としても全力で取り組んでいくつもりで入るよ」

 これだけ期待されているのなら、俺としても応えなくちゃいけないよな。
 プレッシャーは感じるものの、助っ人アルラウネは見事に成長したし、山小屋前の農場は小規模ながらうまいこと機能しそうだ。

 その後、ロアムはデロス村に臨時の商会を設置したいとラッセル村長へ申し出る。
 村長からすれば、これはとても喜ばしい話だ。
 何せ、この町ではそもそも他に商会というものが存在しておらず、時折やってくる行商から物資を仕入れるか遠征をする以外に入手する方法はないのだから。

「こりゃあ二日連続で宴会をしなくちゃいけないな!」
「そんな、お気遣いなく。僕としてはデロス村に受け入れていただいただけで満足ですよ」
「謙虚ですなぁ! さすがは大商人のご子息!」
 
 一気にテンションが上がるラッセル村長。
 ともかく、俺としても嬉しい助っ人が参加してくれて頼もしい限りだよ。