「ん……ん?…んっ!」
榛名は違和感に気づき、重い瞼をゆっくりと開けた。
目の前には男がおり、榛名にキスをしていた。
男は榛名が目を覚ましたことに気づき、更に激しく唇を重ねあわせた。
「んん!…ふぁっ!」
やっと開放される。
男は榛名から少し離れたので、恐る恐るその男に目を向ける。
『やはりな……お前は……』
「誰ですか?私…龍神の生贄になったんじゃ…?」
『俺様がその龍神だ。青龍とも呼ばれているがな』
「えっ!」
龍神と名のる男は青みがかった黒髪で漆黒の瞳、瞳と同じ漆黒の和装と洋装を混ぜたような変わった服装をした超絶美形だった。
『神の眷属なのだから人の姿になれる。聞いたことないか?東丿島に龍神と神子が婚姻関係を結び、子孫を残してやったろ?神子は人間だからな』
生贄として拘束された時に雪愛が言っていたことだ
「私は食べられるのですか?」
『お前が望むならな』
「望まなかったら?」
『俺様は痩せて死にそうな小娘を食べる趣味はない。よって海に投げ捨てるかもな』
「……」
(私は生贄にすらなれないんだ…なんで生きてるのかな……)
下を向き唇を噛む榛名。
そんな榛名を龍神が強い眼差しで見つめ、何か考えていた。
『お前に選択肢を2つ与えてやろう』
榛名は顔を上げ、龍神をみた
『1つは東丿島に戻ること。今までと平和な生活に戻るだけだ。生贄に出されて泣いてる家族も喜ぶだろう』
(平和な生活……家族…………)
榛名は家族から受けた虐待を思い出していた。向こうは榛名を家族としてみていない。
殺すに殺せない邪魔な存在。
そんな家族といるのは榛名にとって平和な生活とよべるのだろうか?
榛名が考えこんでいるは気にせず、男は話しを続ける。
『2つ目は俺様が飽きるまで毎晩抱かれ、飽きたら食われる生贄になること。生贄として俺様の気分で生死が決まる』
(………)
「質問1つだけいいですか?」
『ああ、認める』
「龍神様は私に酷い仕打ちをなさいますか?」
龍神は一瞬、驚いたが生贄として縛らていた榛名の傷をみていて納得もした。
『俺様は女にそんな事は絶対しない』
「…私は龍神様の生贄として尽くします」
『フッ…ならば契約として俺に接吻…今の人間の世界でキスとか言うんだったな?誓いのキスをして忠誠を示せ』
「え………はい」
フラフラと歩き、龍神の前に立つと軽くキスをする。
キスに慣れなれない榛名は緊張していた。
『女、名を名乗れ』
「は、榛名です」
『俺は十六夜だ』
「十六夜様……」
十六夜は榛名を抱きしめ激しいキスをする。
榛名は戸惑い恐れをなしながら受け入れた。
一度死を覚悟したのに情けないと思う。でも少しでも生きられるチャンスがあるなら、と生にしがみついた。
榛名は十六夜の生贄生活が始まった。
十六夜はキスに満足すると榛名を離した。
『食うにしてもまずは肥えろ。ムク!ミク!こいつの世話をしてやれ』
「はいはいですぅ!」
「任せるなの〜」
「可愛い鹿…バンビちゃん?」
『こいつらは俺の使いだ。お前の世話をさせる』
「ムクですぅ!ハルナ様、宜しくですぅ!」
水色の子鹿がピョンピョン跳ねながら嬉しそうに挨拶する
「ミクなの〜ハルナ様、宜しくなの!」
ピンクの子鹿が恥ずかしそうに挨拶する。
ムクは元気で活発、ミクは恥ずかしがり屋で内気そうな感じだ。
十六夜は部屋を出ていった。
「お具合どうなの?」
そういえば高熱で気を失っていたんだっけと思いだし、自分の体を確認した。
生贄にされた時は服を脱がされ全裸だったが寝間着用の浴衣を着ていた。、島の住人や雪愛から受けた暴力の傷は塞がり、熱は下がっていた。
(うん……いつも通り)
「元気だよ」
「わぁ〜じゃあ湯浴みするですぅ?」
「ご飯食べるなの?ボクのドングリあるの!おっきいの〜」
十六夜は屋敷の屋根の上に座っていた。
『榛名……あの女はやはり間違いない。………俺はあの女を絶対に手放すものか!』
食事を与えられなかった榛名は食事を希望した。
生贄として食われるためとはいえ、毎日食事が与えられると聞いただけで目に涙を浮かべるほど嬉しかった。
「ご飯ですぅ?」
「でもボク料理できないなの〜」
「材料があれば私が作れると思うけど…」
ムクとミクは調理場に案内した。
「広い…」
神楽家はいい家柄なので大きな調理場がある。
榛名がまだ家族と仲が良かった頃に兄と一緒に料理をしたりしていた。
そんな神楽家より大きいのだ。
「十六夜様は食事をしないですぅ。だからあるのはボクたちが集めた、木の実だけですぅ〜」
「ハルナ様は人間?人間の食べものわからないの。ごめんなさいなの…」
「木の実を貰っていいかな?」
「はいですぅ!」
「はいなの!」
赤い実と青い実がある。
なんの実かわからないが恐る恐る一口食べてみる。
「わぁ。甘くて美味しい」
(甘いものなんて何年ぶりだろう)
「好きなだけ食べるの。まだ沢山採れるから心配無用なの!」
「はいですぅ」
ムクは小さな瓶に飲み水を入れてくれた
「ありがと…う?」
ムクとミクは鹿の姿から幼い5〜6歳くらいの子供の人型になっていた
服装は和装だが、髪色は鹿の時の体と同じなので見分けがつく。
「えっ?ごほっ…ごほっ…えっ?人間なの?」
榛名はビックリして木の実を詰まらせかけた。
「十六夜様の使いですぅから人の姿になれますですぅ〜」
「凄いなの?」
エッヘンと自慢気なムクとミク。
十六夜から「元気があるなら湯浴みをして寝室にこい」と言われ屋敷の中がよくわからないのでムクとミクに案内してもらった。
生贄の榛名の部屋は先程寝ていた6畳程の小さな部屋になった。
十六夜の寝室の前に立つと深呼吸をした
(抱かれるんだ……これが生きるため…生きるためなんだ!)
覚悟を決め、襖を開けた
「失礼致します」
『来たか』
十六夜は寝間着の浴衣を胸元まで開け、色気たっぷりで榛名はドキッとしていた。
『着ているものを脱げ』
「は、はい」
緊張しながら脱ぎ、十六夜の待つベッドの中へ入ると十六夜から激しいキスをされ、首筋にもキス跡を何個もつけた。
数分間の激しいキスに満足したのか榛名を離した。
「…っ!……はぁ……はぁ……」
息を吐けないほど激しかったので息苦しそうにしていた
『まだ序の口だ。そんなんでは俺は飽きてしまうな』
「…申し訳ございません」
十六夜は榛名の肩を抱き寄せた
『朝は早い。寝ろ』
「えっ…」
『なんだ?口ごたえか?』
「あ、いえ」
(覚悟したのに……)
榛名は十六夜の匂いを嗅いでしまう
(十六夜様…いい香り。……そういえば牢屋にいた頃は床で寝てたっけ……ベッドなんて10年ぶり……)
十六夜の香りと布団の心地良さで寝てしまった。
『寝たか…』
十六夜の目には執着心が宿っていた。
翌朝、頰に生暖かいものを感じ起きるとムクとミクがいた。
頰に鼻息が当たっていたらしい。
「おはようですぅ」
「おはようなの〜」
「おはよう、ムクちゃんにミクちゃん」
ベッドには十六夜はいなかった
「十六夜様は?」
「朝の散歩ですぅ」
「たまに行ってるの」
「十六夜様が今日はハルナ様と出かけるから支度させろって言ってたですぅ」
「ボクたちと一緒にノシバ食べるなの」
「ノシバ?」
※ノシバは鹿が食べる雑草
✱✱✱✱✱✱✱Side 十六夜 ✱✱✱✱✱✱✱
十六夜は龍の姿になり、東丿島にやって来ていた。
目的は榛名の荷物などを取りにきた。
特に女性物の服はない。
十六夜は姿と力を消し、透明人間のような状態で島に降りた。
『どのぐらいぶりになるか……最後にいたのは……』
懐かしさと複雑さを抱えながら榛名の家を探した。
「雪愛様、忌み子が生贄になったんでしたよね」
「そうよ〜。榛名って生贄になるために産まれてきたに違いないって家族や大人たちも言ってるわ」
(榛名だと…)
十六夜は女子複数の話しに耳を傾けた
「今までの生贄って龍神様に見向きもされずミイラになったんでしょ?」
「何それ〜マジウケるんだけど」
「あの忌み子も無様に死んでるかしら」
「キャハハ!あいつが死んで清々したわ。でもあいつを虐めるとスッキリしてたのは残念だけどね」
雪愛達は榛名の悪口を散々言い合った。
雪愛が移動するので付いていくと家に入っていった。
榛名の家だろうと入り、榛名の自室らしき場所を探したがない。
イライラした男…冬史郎が地下に降りる様子に十六夜は不信感を持った。
「ちっ。榛名は生贄だったな。親父に怒られた腹いせに榛名を半殺しにしてやろうと思ったのに!」
牢屋の前で中を確認し生贄に行ったことを思いだしたのか、更にイライラを募らせた冬史郎は檻に鞭を叩きつけて帰っていった。
(………)
牢屋の中は大量の血が飛び散り、血だらけの布が散乱していた。
(…なるほどな)
榛名がどんな扱いを受けていたか把握した。
十六夜は神代家の屋敷に来ていた。
十六夜は大昔に神子と婚姻関係を結び、住んでいた場所だ。
懐かしいのか屋敷を見て回った。
『随分と時代が変わったな…』
「もしや龍神様ですか?」
姿を隠していたのだが、いつの間にか解いていたのかと焦ったが声をかけた人物をみて納得する
『……神代の女は神子の血があるから見えるんだな』
「はい。私は神代光希と申します」
『何用だ?』
「……龍神様は生贄を食べられたのですか?」
『いや、まだだな』
「…と、言う事は生きてらっしゃるのですね!私が身代わりになりますので榛名さんを返してくださいませんか!」
『あいつ以外は駄目だ』
「そんな…私が何か出来る事はありませんか?」
十六夜は榛名の服などを調達してくれないかと頼んだ。
光希は急いで自分の服を適当に詰め渡した
「榛名さんは私より身長があり丈が小さいかもしれませんが、サイズは合うと思いますわ。…私より痩せておりますから」
十六夜は荷物を受け取ると用済みだと島から去った。
十六夜が帰ってきた。
「おかえりなさい十六夜様」
『ああ』
榛名を抱きしめるとキスをしようとしたがやめ、頭を撫でた
榛名もキスを覚悟していたのだが撫でられたことに困惑した
『…お前の家に行った……』
「………」
十六夜に見られたと思うと心が痛んだ。
十六夜は荷物を渡す
『光希とかいう神代の娘からだ。お前を心配していた』
「光希様が…」
『…お前を食う時以外はあんな人間のクズみたいなことはしないから安心しろ。お前は俺の機嫌だけ気にしていろ』
ポンポンと頭を優しく叩き『早く出かける準備しろ』と榛名を着替えさせようとした。
榛名は自室に戻ると頰を赤らめながら、むず痒い気持ちになったが、それは嫌ではなかった。
服はブランド物ばかりの新品だった。
中には未使用のビキニが入っており、下着代わりに水着を着用した。
「ちょっと胸あたりきついかも…でも贅沢は言えない。光希様に感謝しなくちゃ」
袖は七分丈になってしまったがコートは大きめのため、丁度よかった。
靴もサイズが合わないが、履かないと裸足のままなので、こちらもありがたく使わせていただく。
榛名は十六夜の待つ場所へ向かった
「お待たせしました」
『ああ。左手を出せ』
榛名が恐そる恐そる左手を見せると、十六夜は手を取り左手の薬指に指輪をはめた。
「指輪?」
『お前が俺から逃げないように俺の神通力で作った指輪だ。俺以外外せないし、どこに逃げようとも見つけられる』
「あの…左手の薬指の意味、ご存知ですか?」
『なんだ?』
「左手薬指に指輪をはめるのは婚約者とか結婚相手に愛の誓いとして渡すものですね…」
『人間の世界の話だろ?俺たち神には関係ない』
「そうですか……」
ちょっとドキドキした自分が恥ずかしい榛名
指輪はムーンストーンのような小さな石がはめ込んであった。
十六夜は龍神の姿になる
『俺に掴まることを許す。落とされるなよ』
戸惑いながらも龍の頭あたりにまたがり、角にギュッと掴まると、そのまま飛んでいった
しばらく移動し、どこかへ着陸した。
「……ゼェ……ゼェ……う"っ!」
榛名は乗り物酔いをしてしまったようだ。
『だらしがないな』
「うぅ…申し訳ごっ…!!」
少し落ち着いてから十六夜の方を見るといつの間にか人の姿になった十六夜は和服のような不思議な服ではなく、スーツ姿だった。
高身長でスタイルが良く、肌はほとんど見えないスーツなのに色気がある
そんな十六夜に見惚れてしまった。
『何かおかしいか?』
「いえ!とても素敵です」
数分歩くと人がチラホラいた。
榛名はビクッとなり怯えてしまう。
島の住人達から罵声や石を投げられた記憶が蘇っていた。
『ここは見てわかると思うが、東丿島ではないし、ここにいる連中は霊力なんてない。…お前の事なんて気にしないぞ』
「はい…」と自信なさげに呟き、十六夜についていくと、ショッピングモールがあり、外には旗や出店があった。
「お祭りですか?」
『違う。ここは商業施設が沢山入った建物だ。毎日賑わっているそうだ…と、店の者に聞いている』
「毎日お祭りなんですね…」
榛名は島から出たことがないので、いまいち理解できてなかった。
『お前の衣食を整える為に来たんだ』
「え!生贄になんかそんな事していただかなくても!私、お金持ってませんから!」
慌てて遠慮したのだが、『言ったはずだ、健康体くらいに肥えてもらわないとな。金なら神獣とはいえ持っているから安心しろ』と言われ、これ以上何も言えずありがたく甘えさせてもらうことにした。
(あ…)
逃げられないようにか手を繋ぎ、下から上まで建物内をまわることにした。
建物内の人や店に困惑しつつ興味が湧く。
『初めてとか言ったか?島ではどうしていた?』
「島には出ることは許されませんが、月に一度だけ大きな船で物資が運ばれます」
物資や名産品を売るのはアヤカシの力を借りているんだとか。
掟により島を出ることはできないが、生贄を捧げる時は特例だと生贄に向う時に島の住人が言っていた。
『逃げなかったのか?』
「いえ、掟ですから…鈍臭い私はバレてしまいます」
逃げ出したい気持ちはあったが、掟や逃げたのがバレた時に雪愛達からの仕打ちの恐怖心で行動に移せなかった。
『掟か…アヤカシの暴挙を止めるために霊力のある人間を4つの島に閉じ込め、アヤカシは日本を襲わず守らせるためにやったんだったな』
「十六夜様はどのようなお役目であの島に?滞在されておりませんよね?」
『俺たち4体の神獣は地球から島を見えないように結界をはり、島民に守り神として祀らせ、掟を植え付ける。アヤカシの暴挙を止めるのも俺達の役目だ。…普段は天界に住み、察知すればすぐに動くし、たまに気づかれずに監視しに行くらしいだがな』
「十六夜様が住む島が天界ですか?」
『違うな。ただの無人島だ』
「なぜ天界に住んでないらっしゃらないのです?」
『俺はあの島を捨て、天界から捨てられた……それだけだ』
淡々と語る十六夜の目には淋しさが写っていた
何があったのか知りたかったが、なんとなく聞けない雰囲気だった。
それから日用品から衣類など購入した。
『次の階に…』
元気そうな十六夜に慣れない場所と人混みに榛名はヘロヘロに疲れていた。
「き、休憩よろしいですか?」
『よかろう。人間はそろそろ飯の時間か』
レストラン街に着くと昼時のようで賑わっていた。
相変わらず人の多さにビビる榛名だが、見たことない料理に釘付けになってしまった。
店には食品サンプルが展示されており、顔に出さないまでも心は驚きや興奮が冷めない状態だ。
十六夜は食事をしないので興味すらない。
『食べたいもの全部食えばいいだろ』
「む、無理です!」
何がいいかわからないので十六夜に任せると、レストラン街で一番高い店に入った。
人が少なく、静かな店を探し、選んだようだ。
榛名は天ぷらや刺し身や煮物など色んな味を少しずつ楽しめる懐石弁当を頼んだ
『少しは落ち着いたか?』
「はい…十六夜様には良くしていただいて嬉しい限りです」
『そうか』
十六夜はフッと微笑む
(あ…)
胸がドキドキした。
「私、こんなに良くしていただいてるのに何もできなくて…」
『お前は生贄だ。何もしなくていい』
「…はい」
「何もできない…何もしてあげられない」生贄だけの存在に悔しくもあり、選んだのは自分だからと自分に言い聞かせる
十六夜は榛名が頼んだ料理より先にきた、日本酒を呑んでいた。
じっと見ている榛名に気がついた。
『酒飲みたいか?』
「私は20歳にならないと飲めません」
十六夜に気になった事を質問してみた。
「お酒は呑まれるんですね?」
『天界でも酒は振る舞われるからな』
「食べ物は食べないのに生贄は食べるんですか?今までの生贄は放置されたって聞いたのですが、なぜですか?」
『生贄は供物扱いになるから食べれるんだ。今までの生贄は興味なかっただけだ』
「じゃあ私は興味あったんですか…」
『ああ……』
その後の話を聞きたかったが、暖かいご飯に感動し食べる事に目がいってしまった。
食事が終わると十六夜はフロアの人気のない場所に行くと買い物した荷物を投げた。
「え!」と思っているとムクとミクがコッソリと荷物を運んでくれていたらしい。
一生懸命運んでいる姿が可愛らしくてほっこりする。
「…痛っ!」
靴ずれをしていた
急遽、屋上に行き、ベンチに座った。
『絆創膏だったか?手当て用品買ってきてやる』
「いえ、大丈夫です。私、怪我や病気はすぐ治るんです」
榛名にも理由がわからない力だ。
『そのお前の力は神通力によるものだろうな』
「神通力?霊力じゃなくて?」
『お前には霊力は全くない。霊力はアヤカシが強さを示し能力を発揮するが、人間は霊力の強弱くらいはわかるだろうが、何の力もない。神通力は俺たち、神と神獣が使う力といえばわかるか?霊力より格上なのが神通力だ』
「私、ただの人間なのに…」
『島の住人の中に神通力を持つ者が稀に生まれるんだ。だが霊力の強弱程度しかわからない人間には神通力を持っている者を判断はできない。神通力を持つ人間は何かしらの能力が備わっている』
「治りが早いのは神通力の特殊能力ってことですか?」
『そうだ。神通力しかないお前はかなり特殊なようだながな』
少し無言になってから話を続けた
『神通力があるということはお前は神子になれる…つまり東丿島の神子は俺様の番になれる資格がある』
「え…」
顎をクイッとあげ、親指で榛名の唇をなぞる
『俺の番になってみるか?』
榛名の顎から手をどけた十六夜
『冗談だ。俺は誰も番にしない。……俺が愛しているのは八重だけだ』
「やえ?」
『俺が婚姻関係を結んだ神子だ。俺は八重以外は永遠に愛すつもりもない。資格があるだけで、たとえ神子になったとしても番にするかは別の話だからな』
「…愛してもいない私にキスや抱きしめたりなさるのですか?」
『お前には説明しておいた方が誤解させずに済むだろうから、言っておく。お前に興味があると言ったな?』
先程の食事に話した話しだ。
『俺の髪と目は黒いだろ?本来の色とは違う。俺は天界の禁忌を犯し捨てられた。髪と目は闇に侵された禁忌の証だ。見えないだろうが体内も闇に侵食されているんだ。だがお前の神通力の能力に闇を消す"癒やしの力”がある』
「私にそんな力が?」
初耳だったし私なんかに?と自己評価が低い榛名は信じられない。
信じられないが自分の傷が治るのを自身が一番知っているのでなんともいえない気分だ。
『お前と体を交じ合えば闇は消えていく。キスも体を交わるほどではないが有効な手段だ』
(だからキスしたり毎晩抱かれろって…)
『それとお前の魂は八重の生まれ変わりだから愛しくて唇を重ねただけだ。八重の魂を俺から永久に手放さないようにお前を生贄として食う。俺の体が元に戻るまで生かしてやるが役目が終われば食う。わかったな?』
「はい、お役目務めさせていただきます」
『もう一度いうが、俺は八重以外は絶対に愛さない。お前は生まれ変わりであって八重ではない。妙な感情を抱くなよ』
「はい…」
十六夜は榛名に激しいキスをする。
(あれれ……心が痛い……私……)
この気持ちの正体に気がついた榛名
ポチャン…
帰宅後、榛名はお風呂に入っていた。
露天風呂で海を眺められ、たまに波の音が聞こえる。
(あの島にいた頃よりマシだよね…暫くは生かしていただけるだけで感謝しなくちゃ…)
「えへへ…恋かもって気付いたと同時に失恋とはね」
から笑いしながら必死に泣きそうな気持ちを抑えた
「いきなり沢山与えられて贅沢で我儘になっちゃってた。立場と役目はしっかり弁えないと!」
一方、十六夜は八重の事を考えていた。
「あいつは八重ではない。八重の代わりはなれない……もう二度と八重の魂は手放さない」
十六夜の執着心は榛名の魂に向いていた
昨晩は十六夜が先に寝てしまったので、榛名は1人で眠った。
榛名としては昨晩はありがたかった。
(お役目のため太らなきゃね)
「おはようですぅ」
「手伝うの」
ムクとミクが鹿から人型になる。
食料品と調理家電や器具はかなり買ってもらった。
神の力とかで電気ガス水道のライフラインは使えるとムクとミクに聞いたので早速、使わせてもらう。
「神の力万能ね」
レンジで温めたレトルトのリゾットをいただく。
「ん、おいしい」
島では犬用の餌皿に米と味噌汁、おかずが混ぜたものがご馳走だった。酷い時は腐った野菜やカビの生えたパンなどだった。
生きるために与えられたものは食べるしかなかった。消えたいのに結局、生にしがみついていたのだ。
「十六夜様に感謝しなくちゃ」
「ハルナ様は十六夜様と番にいつなるですぅ?」
「え?」
「ハルナ様は神通力あるなの。ボクらと同じなの」
「2人も?十六夜様の使いって従者ってことよね?」
「そうなの。ボクらは東丿島にいた鹿なの〜」
「ママが死んで鳴いて飢え死にしそうな時に十六夜様が使いとして神通力を与えて助けてくれたですぅ」
「十六夜様は優しいんだね」
(野生動物たちが銃を弾くほど妙に剛力筋肉質ムキムキマッチョなのは十六夜様の力だったんだのね…)
「ハルナ様も優しいですぅ」
「そうなの。十六夜様はずーっと孤独なの。ハルナ様は十六夜様の孤独を埋めてくれる方なの!」
「私は……優しくないよ」
(ただの生贄…八重さんの代わりにはなれない)
「十六夜様から番にはしないって言われてるの。私はた打の生贄だよ」
ムクとミクはむぅぅ〜と頰を膨らませ足をジタバタさせたり床を足でバンバンした。
「十六夜様は男の恥なの!」
「十六夜様ちゅーした責任取れですぅ!」
怒る姿がまた可愛らしい。
「番にしないじゃなくて、させるですぅ!」
「ハルナ様が十六夜様に番にしたいってを言わせればいいの!好きにさせればいいの!」
(好きにさせれば…?)
「あー十六夜様ですぅ」
「ハルナ様!早くちゅーするなの!」
「十六夜様、おはようございます」
『ああ。キスしにきたんだがメシは終わったか?』
「はい」
いつものように抱きしめられ激しいキスをされた。
榛名の心は複雑だった。
十六夜から唇を離されると
『見えるか?』
目の前に手を差し出さた
「黒い煙ですか?」
『ああ。これが闇だ。だがお前の力で僅かながら消えたんだ』
「役に立てるなら良かったです」
『今日は買い物に行くか?』
「暫くは大丈夫です。十六夜様は普段どうされているのですか?」
『どうもしない。寝てるだけだ』
「そうですか……」
(うーん…会話が続かない…)
榛名はボーッと子鹿姿のムクとミクが落ちたドングリを食べているのを眺めていた。
「でっかいドングリですぅ〜」
「ボクもでっかいの食べたいなの〜」
楽しそうに落ちては食べを繰り返していた。
「そういえばまだ1月なのに全然寒くないなぁ〜」
独り言のつもりだったがムクとミクが答える
「十六夜様の力ですぅ」
「神さまに捨てられても神獣の力は維持してるの。だから島の中は丁度いい気候なの!」
「ドングリや他の木の実も年中食べ放題ですぅ」
「へぇ~」
「ここって野菜育つかな?」
「やったことないからわからないなの」
「畑作るですぅ?」
「十六夜様が許可してくれればだけど」
『構わんぞ』
後ろから声がし振り向く十六夜だった
「十六夜様、お役目の時間でしたか?」
『いや、キスは1日2回程度でいいだろう。それとも俺ともっとキスしたいのか?』
「い、いいえ!あっ畑の件ありがとうございます」
『近いうちに買い物に行くか』
「はい」
「デートですぅ」
「デートなの〜」
「ち、違うよ〜」
『でぇと?なんだそれは?また変な事覚えやがって…』
呆れる十六夜にムクとミクは興奮したのかお尻の毛をモフモフとさせ尻尾を立てていた。
『榛名』
「は、はい!」
名前を呼ばれただけでドキドキした
『俺様は水遊びしてくるから何かあればムクとミクを頼れ』
「はい」
十六夜は龍神の姿になり海へ潜っていった