K市からの帰りの電車に揺られて、わたしはいつの間にか寝てしまっていた。


 気がつくと、どうやらわたしは悠の肩を借りていたようだ。


 「ごめん、重かった?」


 「ぜんぜん気にならなかったよ」


 「ありがとう」


 「むしろ晴の良い香りがして、こっちがありがとうだよ」


 「そういう気持ち悪いこと女子に言わないの」


 わたしがそう言って肘打ちすると、悠が「うっ」と声を出す。


 「晴ぅ、電車の中なんだからいきなり攻撃するなよ」


 「悠が気持ち悪いこと言うからでしょ」と、わたしたちは小声で言い合った。


 「俺はこういうことは晴にしか言わないって」


 「ぜんぜん、そんなの嬉しくないっ」


 すると、なにかに気づいた悠の目がはっと大きく開く。


 「それより晴、あれ見て」


 悠の目線の先を見ると、青年がギターケースを立てて座席に座っている。


 そのギターケースのロゴはYギターのデザインだった。


 「あ、わたしと同じギターだ」


 「俺さー、ギター持ってる人を見かけると、晴と同じギターじゃないかなって確認しちゃうんだよね」


 「わかるよ。わたしも同じの使ってる人がいたら仲間だ、って嬉しくなる」


 最初はわたしの持っているYギターしか知らなかった悠。


 今では、わたしの影響でギブソン、マーチン、テイラー、ヤマハ、フェンダーなど色々なギターメーカーを知っている。


 そういえば最初に悠が、わたしに声をかけてくれたのもギターがきっかけだったな。