「だが、殺す必要はない。君は俺と結婚する。そうだろう?」
どきん、と心臓が大きく脈うった。
 どうかしてる、と萌々香は自分を思う。まるで脅迫なのに、彼にときめくなんて。
「また私をからかって……」
「からかってなどいない」
「だけど夕方、急にいなくなって。連絡先だって知らないのに」
「あれは……ちょっと急用で。すまなかった」
 恵武が興奮して耳と尻尾をだしてしまったので、急遽姿を消したのだ。
「何も言わずにいなくなって」
 声に涙が混じり始めた。
「絶対、からかわれたんだと思った」
「悪かった」
 尊琉が萌々香を抱きしめる。
 涙が頬を伝うと、尊琉の手が優しくその雫を拭いとる。