地上を見る余裕などなかった。
 思わずしがみつく萌々香に、尊琉はふっと笑みを浮かべた。
 月を背に飛んだ尊琉は少し川上に行ったあたりで降り、萌々香を降ろす。
 だが彼女は立っていられずにぐらりと揺れ、尊琉は抱きしめるようにして萌々香を支えた。
「どういうことなの……?」
「あいつらはハロウィンに龍のコスプレをした人間と出会い、喧嘩をふっかけたが負けた。その後、車が事故をおこした。それだけのことだ」
「コスプレって……」
「警察はおそらくそう処理するだろうな」
 だが、それでは尊琉の気がすまないので、肋骨を数本折っておいた。目に見えるケガだと萌々香が気にしてしまうだろうという尊琉の配慮だった。車もつぶしたし、これで当分は悪さもできない。大事故として警察も介入するだろうから、その際にはナイフの持ち歩きもバレる。銃刀法違反にはあてはまるだけの刃物だったから、なんらかのお咎めはあるだろう。
 尊琉の思惑など知らない萌々香は、ただ呆然と立ち尽くす。
 さきほど見た非現実的な景色と警察という現実的な単語が頭の中でうまくかみ合わず、彼女は目を瞬いて尊琉を見た。
 尊琉は不敵な笑みを萌々香に見せ、おごそかに告げる。
「だが君は違う。俺の姿も力も見た。そのままにはしておけない。俺の神たる姿を見たものは殺すか、嫁にするか、どちらかだ」
「そんな……」
 おじけづいて身を引く萌々香を、尊琉はぐっと抱き寄せる。