アーケードで覆われていて月光はなくなったが、街灯が明るく照らしていた。

 店はどこもシャッターが閉められ、閑散としている。
 夜九時ともなれば買い物客などいるわけもない。

 昼間は歩行者専用になっている道路を、業者の車がときおりゆっくりと走って行く。
 生まれ育った商店街だった。昼間はにぎやかで萌々香を温かく包む良き隣人だ。

 が、眠りについた夜の商店街は急に萌々香を他人にする。
 シャッターは冷たく目を閉じ、道路は黒々と沈黙している。
 まるで異邦人のように萌々香はその端っこを歩いた。

 萌々香の自宅はこの一角にある。両親が和菓子店を営んでいて、一階が店舗、二階と三階が住居になっている。
 あと少しで家につく、というところで、人の声がしたような気がして、アーケードの切れた横道を覗き込む。

 街灯のないビルの暗がりに三人の男がいるようだった。その足元には男の子がうずくまっている。頭には茶色の丸い耳が生えて、腰のあたりからは丸みを帯びたしっぽが出ていた。

「やめてください!」
 まだ幼い男の子の声が響いた。

「ガキのくせにいっちょまえにコスプレかよ」
 男たちはげらげらと笑い、一人が男の子の背を蹴飛ばした。男の子は短く悲鳴をあげて倒れ込んだ。