今日はまだあと数時間ある。
 本当にただからかっただけなら名刺を置いて行かないのではないのか。
 そんなことを思ってしまう自分に、苦笑した。
 もういない人の行動を考えたところで意味がない。
 襲われたところを、彼は助けてくれた。もうそれだけでいいじゃない。
 そう思って顔をあげたとき、風が吹いてガーランドフラッグがゆらめいた。
 のろのろと黒いワンボックスが走って来た。
 どこかの業者だろうか。
 昨夜のこともあり、萌々香は警戒しながらゴミを持って歩き出す。
 黒い車が急発進した。
 かと思うと萌々香の前で急停車する。
 思わず立ちすくんだ。
 助手席と後部座席から男が現れる。
 一人は骸骨のお面をつけ、もう一人はミイラのかぶり物をかぶっている。
 昨日の!
 萌々香はとっさに踵を返す。
 が、男たちのほうが早かった。
 萌々香の口をふさぎ、車に乗せて走り去る。
「萌々香?」
 異変を察した母が外を覗きにきたときにはもう萌々香の姿はなく、ただゴミ袋だけがぽつねんと残されていた。