閉店の前後は忙しいだろうから、訪問は避けるべきだろうか。だがそうすると時間が遅くなる一方だ。いつ彼女に会いに行こうか。
 思い出されるのは萌々香の笑顔だ。
 尊琉の心に温かいものが広がる。
 まさかこんなことになるとは思わなかった。
 恵武たちを助けるとき、思わず力を使い過ぎた。
 そのために部分的に神龍としての姿が現れてしまった。
 一族には、その姿を見られた場合には殺すか結婚するかしかない、と言い伝えられている。
 かつては本当に殺していたというが、現代ではその必要がない。龍を見たなどと言っても正気を疑われるだけだからだ。とくにハロウィンの時期は仮装だと言い張ってしまえばなんとか言い逃れることもできるだろう。
 なのに。
気がつけば、嫁になるか殺されるか選べ、と言っていた。
気絶した彼女は彼が家に送り届けた。住所は学生証ですぐわかったし、鍵のかかった家の中に入るのは彼の神通力を使えば簡単だ。
 運命に出会うだろう。
 おばばの言葉が頭に蘇る。
 こういうことか。
 尊琉は窓から月を眺めた。
 まんまるの月が地平に赤くのぼり始めていた。