「正体を知られたら困るのはお前だけじゃないんだぞ」
「気をつけます」
「このあとは帰るまで外出禁止だ」
「ええー!」
 恵武は抗議の声を上げた。
「もう日も暮れた。でかける用事などないだろう」
「だって、返事を聞きに行くんでしょう?」
「俺が一人でいく」
 尊琉が言うと、また恵武は抗議した。
「そんなあ! オレもあのお姉さんに会いたい!」
「野暮なことを言うな。一人前のお目付け役なんだろう? だったらこういうときに邪魔をしない、くらいのことはできないとな」
 言われて、恵武は押し黙る。
「このかぼちゃまんじゅうを配る準備をしてくれないか。鯉池(こいけ)と一緒に、十個ずつにわけてきてくれ」
 恵武はしょんぼりとうなずき、耳と尻尾をひっこめて、まんじゅうを持って部屋を出て隣室にいる秘書のもとに向かった。鯉池も一族のものなので、もしまた恵武が耳としっぽを出しても気にする必要はない。
 尊琉は買ってきておいた缶コーヒーを開け、飲んだ。