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 同じ空の下、ハロウィンを翌日に控えて街は浮かれていた。

 オレンジ、紫、黒のガーランドフラッグがあちこちから垂れ下がり、にたにたと笑うカボチャの置物やイラストがあちこちに飾られている。

 街中のおばけたちは誰もが陽気で、魔女と骸骨がハイタッチをして仮面をかぶった殺人鬼はゾンビとハグをする。そんな夜だった。

 桜庭萌々香(さくらばももか)は上機嫌で電車に揺られていた。
 萌々香は仮装していない。金曜日の今日も学校だったからいつもの制服のブレザーで、長いダークブラウンの髪は後ろで一つにくくっている。

 明日はハロウィンだからと高校の友人に誘われ、持ち込みOKのカラオケで女子会を楽しんできた帰りだ。十八歳にもなって彼氏ではなく友達と遊ぶというのが少し残念だが、楽しければそれは些細なことだった。

 萌々香は鼻歌を歌いながら電車を降りる。
 地元となるとさすがに仮装をしたお化けはおらず、駅を出た人々はまっすぐに家路につく。萌々香も自宅へと向かった。

 ひと気は減る一方だが、月が明るく道を照らしている。楽しい気分のせいもあってか、いつもより夜道への不安は少ない。
 萌々香はがらんとした商店街へと入る。