嫁になるか殺されるか、選べ。
 夢の中の竜の言葉が蘇る。
 あの竜もまた青銀の光を放っていた。さきほどの尊琉のように。
 まさか。
 萌々香はじりっとあとじさった。
「そんなに俺が嫌か?」
 尊琉が萌々香に問う。
 萌々香の心臓がどきんとはねた。
 温かい両手が萌々香の手を取る。
 尊琉に見つめられ、萌々香はまた目が離せなくなった。
 美しい目だった。一重の切れ長の目に、まつげが長い。短い髪は爽やかに刈られ、形のいい耳が見えた。頬のラインはシャープでいてなめらか、薄い唇は彼のクールさを引き立てている。
 だが、萌々香は知っている。冷酷にも見えるその顔に笑みが浮かぶと、いっきに優しさに包まれるのだ。
「嫌なんてこと……」
「なら、いいんだな?」
 答えられなくて、萌々香は俯く。
 会ったばかりなのに結婚だのなんだのと言われて、了承できるわけがない。
 イエスかノーしかダメなのか。せめてもっと時間がほしい。
「俺は明日には帰らなくてはならないから今日中に返事がほしい。とりあえずこれを持っていてくれ」
 尊琉はそう言って萌々香の手になにかを握らせた。
 萌々香が顔を上げると、もう尊琉と恵武はいない。
「え? いつの間に……」
 呆然と見回す。
 さびれた商店街の景色が目に映るだけで、彼らの姿はどこにも見当たらなかった。
「今日中に返事って、連絡先も知らないのにどうやって」
 つぶやいた言葉は誰にも届かず、ただ湿気を帯びた空気に溶けて行った。
 萌々香の手には、青銀に光る鱗のようなものが残されていた。