思わず追い掛けようとしたら、すそを踏んでつんのめった。
「あ!」
 転ぶ、と思ったときにはもう尊琉に抱き留められていた。後ろから力強い腕に支えられて、背には尊琉の胸があった。
「大丈夫か」
 耳のそばで声がした。
 顔を上げると、間近に尊琉の顔があった。心配そうに見つめる目に、かあっと頬が熱くなる。
「大丈夫です」
 慌てて離れた。
 ふと視線を感じてそちらを見ると、駄菓子屋の老主人がにこっと笑ってひっこんだ。
「どうしよう、絶対に噂になる……」
「気にするな」
「あなたは帰るからいいでしょうけど、私はここに住んでるんですよ」
 彼は出張先で女をからかって遊んだ楽しい思い出になるだけだろうが、萌々香にはたまったものじゃない。
萌々香は泣きたい気持ちで尊琉を見た。
「どうしてあんなこと言うんですか!」