「俺の嫁になる決心がついたころだろうと思って迎えに来たのだが、覚えていないとはな」
「嫁!?」
 尊琉の言葉に萌々香は驚愕した。これも恵武のごっこ遊びの一環なのだろうか。萌々香をからかっているだけだろうか。
「まあいい。今日一日一緒にいれば決心もつくだろう」
「はあ!?」
 萌々香は驚き過ぎて二の句が継げない。
 男性は平然としていて、内心でどう思っているのか、萌々香には予想もつかなかった。
 あっけにとられていると、恵武がごちそうさまでした、と萌々香に言った。
「すっごいおいしかったよ、お姉さん!」
 顔中に笑みを浮かべて恵武は答えた。その笑顔を見るだけで心に温かさがわいてくる。
「良かった」
 父に教えてあげよう、と萌々香は思った。
 職人気質の父は和菓子を作ることには一生懸命だがあまり店頭には立たない。だからお客さんの反応を直にみることはほぼない。
「もっとお菓子食べたい」
 恵武が尊琉を見上げてねだる。
「ダメだ」
 尊琉は即答した。