さきほどまでの彼のきりりとした姿は威圧感があったが、今は空気がほどけて居心地が良かった。
「この辺の方じゃないですよね」
「ああ。仕事で昨日からこちらにいる。龍天院尊琉(りゅうてんいんたける)だ。このちびは綿貫恵武(わたぬきめぐむ)
「桜庭萌々香です」
 答えながら疑問に思う。こんなところに子どもをつれてくる仕事ってなんだろう。
 商店街にスーツの男性の親子連れは見たことがない。たまに営業らしきスーツの男性を見ることはあるが、やはり子どもなど連れてはいない。
 もう一度恵武を見た萌々香は、あっと小さな声を上げた。
「思い出したか?」
「はい……」
 夢の中で助けようとした男の子だった。
 ということはあれは夢ではなかったということだ。少なくとも男性と出会うところまでは。
「こいつが世話になった」
「いえ、結局私が助けて頂いて。ありがとうございました」
 頭を下げると、しゃらん、とかんざしが鳴った。 
「おねえさん天女なの?」
 恵武がたずねる。