いつの間にか、スーツの男性が近くに立っていた。
 歳は二十代半ばだろうか。凛々しい顔に鋭い目が怖い。

 金縛りにあったように男性から目が離せなくなる。どこかで見たことがある。それも最近だ。

 男の目が青銀に光ったように見えて、萌々香は目をしばたいた。
 萌々香の胸にときめきとも不安ともつかないようなものが押し寄せ、鼓動が早くなった。

 男は観察するように萌々香を見返していた。
「勝手に行くなと言っているだろう」
 ふいに目をそらすと、男性は男の子の頭を撫でてそう言った。
 萌々香はこっそりと息をつく。早くなった鼓動はすぐにはおさまらない。

「だって、あのときのお姉さんの匂いがしたんだもん」
 男の子はぷくっと膨れて抗議してから、まんじゅうを彼に見せる。

「おまんじゅうもらったよ」
「代金は」
 男性が男の子をとがめるように尋ねる。

「今日は小学生以下の方には無料で一つお配りしているんです」
 萌々香は男性に説明した。

「そうか。ありがとう」
 にこりともせず、男性は言った。

「いえ」
 萌々香は愛想笑いを返した。