「こんにちは」
 返事を返しながら、萌々香はまんじゅうを一つ手に取ってしゃがみ、男の子と目線を合わせた。

「ハロウィンだからおまんじゅうをプレゼントしているの。どうぞ」
「やったー! ありがとう!」
 男の子はまんじゅうを手にはしゃぐ。

「うちの特製のかぼちゃまんじゅうなの。アレルギーは大丈夫?」
 萌々香はにこにことたずねる。

「大丈夫!」
 答えたあと、彼はふと我に返って真剣な顔で萌々香に言う。

「トリックオアトリートって言ってない」
 深刻そうなその声に、ふっと笑みがこぼれた。
「じゃあ、今言ってくれる?」

「トリックオアトリート!」
 男の子は元気に声を上げた。続けて、
「昨日もありがとう、お姉さん」
 と言った。

「昨日も?」
 萌々香は首をかしげた。昨日は店頭に立っていないし、まんじゅうのプレゼントも行っていない。

「あ、若様!」
 男の子が声を上げる。