「せっかくの土曜日なのに」
「なに言ってるの、うちだけのことじゃないだからね」

 和菓子店のあるアーケード街でハロウィンイベントをやっている。ハロウィン当日で土曜日でもある今日、それなりに人が来ることを見越して萌々香も手伝うことになっていた。

「衣装は用意してあるから」
「あれ着るのぉ?」
 壁にかけてあるごてごてした衣装を見て、萌々香はうんざりと声を上げる。

「ハロウィンなんだから、仮装しなくちゃ! がんばって作ったのよ!」
 萌々香が子供だったら喜んだだろう。だが自分はもう十八だ。あの衣装は恥ずかしい。

「あんな衣装ハロウィンじゃないよ」
「血みどろの仮装で店頭に立ってもお客さんなんて来やしないわよ」

「去年まで仮装なんてしなかったじゃん」
「そうなのよ。もったいないことしたわ」
 貴子は平然と答える。

 萌々香はあきらめた。
 お店の開店時間に合わせて母に薄桃色のその衣装を着せられる。
 まるで天女か竜宮城の乙姫だ。

 上半身は着物のようだが、下半身部分は裾が大きく広がっていてドレスのようだ。羽衣のようなショールはオーガンジー製でひらひらしていた。針金が中に入っていて形を固定することができ、背中にとりつけることができた。