* * *

 目が覚めると自分の部屋だった。
 温かいベッドの中、雨音が耳に心地いい。カーテン越しの光は薄く、湿り気のあるやわらかな空気が部屋に満ちていた。

 あれは夢だったんだ、と萌々香はほっとした。
 チンピラにからまれた男の子を助けたら自分がピンチになって、男性に助けられたと思ったらその人の顔が龍になった。なかなかに変だ。最後がどうなったのかあいまいになって覚えていないのも夢にありがちだ。

 体を起こすと、服は制服のままだった。
 靴はベッドの下にそろえられていた。

 なんでこんなところに靴が。記憶はないけど、ここまで靴で来ちゃったのかな。

 もんもんとしながら起き出して靴を玄関に置いてシャワーを浴びた。
 さっぱりしてダイニングに行くと、母の貴子が朝食の準備をしていた。

「おはよ。今日は頼んだわよ」
 貴子に言われ、萌々香は顔をしかめた。

「そういえばそうだった……」
 今日はハロウィン。両親の経営する和菓子店の手伝い約束をしていた。