男子校的教師と生徒の恋愛事情

 伝馬の表情が一瞬止まった。いっせい? 

 ――誰だっけ。

 どこかで聞いた覚えがあるような、ないような。なぜか肌がムズムズする。

 伝馬は男性に問いかけるような眼差しを向ける。だが男性は伝馬からふらりと視線を外すと、その背後で何かを見つけたかのように口元で笑んだ。え? と伝馬はその視線の先を追うように振り返る。すると、桜の並木を抜けた先にある正面玄関の方から、誰かが小走りで駆けつけてくるのが見えた。

「……副島先生!」

 息せき切って現れたのは、一成だった。

「――貴方は、ここで何をしているんですか!」

 一成は息を荒げながら、男性へ掴みかからんばかりに食ってかかる。

「ああ、一成」

 しかし榮は落ち着き払った態度を崩すことなく、ゆったりと口をひらく。

「記憶が刺激されて、懐かしい場所を歩いていただけだ。そして、ユニークな子に出会った」

 そう言って、驚く伝馬に顔を傾けてみせる。まるで、そうだろう? と同意を求めるかのように。

 伝馬は戸惑ったように一成を見つめる――先生の知り合いなんですか――心の中で疑問符がつくが、一成の表情はひどく硬く、榮を睨みつけているように見える。だが伝馬の視線を感じてか、かすかに目が伝馬へ向いた。その三白眼は明らかに怒っているようで、それでいて、どこか気まずそうである。

 ――何なんだ……

 だが伝馬の困惑を他所(よそ)に一成は答えることなく、榮に向き直ると、いっそう眼差しを激しくする。

 榮は表情に楽しげな色を浮かべて、悠然としている。

 伝馬は――不可解な二人の大人に、独り戸惑っている。

 風が、太陽の熱を(はら)みはじめていた。