「なぁ千葉、俺の作業手伝ってくれねー?」
「何言ってるんですか。それは先輩の仕事ですよ」
「なんだよ、おいっ。後輩のくせに生意気だなぁ」

 俺が悩んでいる一方でふざけ合う武田先輩ともう一人の書記、千葉くん。
 生徒会ってもっと規則に厳しくてピリピリしてそうなイメージだったのに現実は全然そんなことなくて、むしろ緩すぎる。

 ……まぁ、その方がありがたいけれど。

「矢野くん」

 おもむろにコソッと聞こえた声。

 それは前からではなく、横からで。

 顔を上げると、すぐそばに夏樹先輩がいた。

「ちょっと時間ある?」

 長テーブルとパイプ椅子に手をついて、俺を囲むように立っている先輩。

「え、今ですか……?」
「うん」
「えと、でも今は……」
「この前のことで話があるんだよね」

 夏樹先輩は、なんの躊躇いもなくそう言った。

 〝この前〟のことで急速に手繰り寄せられた記憶はたったひとつしかなくて。

 どうしよう。誤魔化す? でもここで? テンパって俺の声ボリュームが大きくなりそうだし、そうなれば他の人に聞かれるかもしれないし。かといって断ったところで先輩が食い下がるようには見えないし……

「……す、少しだけなら」
「うん、よかった」

 先輩は優しい声を落としたあと、長テーブルとパイプ椅子についていた手をのけて、

「山崎ー、俺と矢野くんジュース買ってくるからちょっと抜けるわ」

 山崎先輩に軽々と嘘をついてみせるから俺はギョッとして顔をあげるが、嘘をついた当の本人は悪びれる様子なんか見られなくて。

 大丈夫なのかなぁ……とこっちが不安になる。

「分かった、気をつけて」

 が、その不安は杞憂に終わる。

 会長は先輩の言葉を疑うこともせずに信用した。