卒業式が終わり学校は春休みに入っていた。

紫音は、家で過ごしていた。

ベットで横になり、スマホをみていた。

メッセージアプリと電話の着信履歴は、父親からの連絡だったが、無視していた。

「いまさら、なんて言えばいいんだよ…」

紫音は、家族と暮らしていた時の記憶を振り返った。


紫音の家は、父親と母親、紫音と理音(りおん)の四人家族だった。

紫音から見ても仲のいい家族だったと思う。

両親は双子である紫音と理音に平等の愛情を注いでくれた。

紫音と理音もとても仲が良かった。

一卵性双生児で生まれ、外見は見分けがつかないほど似ていたが、性格は真逆だった。

「あいつ、俺と違って内気だったよな…」

社交的で、外で遊ぶのが好きな紫音に対し、理音は家の中で遊ぶのが好きだった。

また、食べ物の好みや好む服装も違っていた。

ある日、紫音と理音は河川に遊びに行った。

川には入らずにいたのだが、理音が足を滑らせて川に落ちてしまった。

紫音は急いで助けに川に入った。

しかし、流れが速く、思うように進めなかった。

紫音に助けを求めて理音が必死に叫び、手を伸ばしていた。

「…っ!」

紫音は拳を壁に打ちつけた。

「俺のせいで…母さんは…」

その後紫音と理音は通行人が発見し、病院に運ばれた。

両親がすぐに駆けつけてくれた。

紫音はしばらくしてから意識を取り戻したが、理音は意識が戻ることはなく、亡くなってしまった。

『紫音、しばらくの間母さんの前で理音として振る舞ってくれないか?』

父親が一人で病院にきた時にそう言われた。

紫音の母親は、理音が亡くなったことを受け入れられず、生きていると思いこんでいるらしい。

そしていよいよ病院を退院する日になった。

紫音はまだ入院していると言って、紫音は理音として生活することになった。

母が元気になるならと、紫音は母親の前では理音として振る舞った。

その間、紫音のことが話題に出ることはなかった。

紫音は時折思うようになった。

母親が大事なのは、理音だけなのではないか?

自分は母親にどう思われているのだろう?

ある日思わず言ってしまった。

理音は亡くなっている。

自分は紫音だと。

それを聞いた母はひどく動揺し、窓から飛び降りようとした。

理音を一人にしてはかわいそうと言って。

飛び降りる前に仕事から帰ってきた父が母を止めた。

自分のせいで母親が死のうとした。

そう思った紫音は、父親に離れて暮らしたいと言った。

『わかった。知り合いで身寄りのない子供たちを引き取っている家があるからそこに行くといい。』

そして紫音が連れてこられたのが桜咲家だった。

冬休み前に湊の母親に紫音の父親から家に帰ってこないかと紫音に伝えて欲しいと連絡があったようだ。

紫音のスマホにも連絡がきたが、一度も出ていない。