その頃、花蓮たちは真白が帰ってこないことを疑問に思っていた。

「真白、帰ってこないね」

春香が立ち上がった。

「私、探してくる」

春香が部屋を出て暗い廊下を歩いた。

「どこかで迷子にでもなってるのかな」

また歩き出そうとしたとき、何かが足に当たった。

「なにこれ?」

何か丸いものだった。

開けるところがあり、開けてみると上に小さな鏡が着いており、下には紅があった。

化粧道具のようだ。

「誰かの落とし物かな?」

そのとき、鏡が光り、春香の姿が消えた。


「ねぇ、遅くない?」

花蓮が言った。

春香がいつまで経っても戻ってこないので、心配になってきた。

「みんなで探しに行こう」

そう言うと、三人は部屋を出た。

「え?昔はこの旅館と桜咲家の本家は一つの建物だったんですか?」

要たちはそれを聞いて驚いた。

「うん。しばらくはそのままだったんだけど、使っていないところが結構あったから、一部を旅館に建て替えたんだ」

「本家があんな状態なのに、そんなことして大丈夫だったんですか?」

なにしろ邪気があんなにいたのだ。

「それが、平気だったんだよ。不思議だよね」

今まではかなり繁盛していたらしい。

「ところで先生たちはいつになったら戻って来るんですか?」

慧と千輝は、さっき部屋を出た行ったきり、戻って来ていない。

「なんか、調べ物があるんだって」


「すみません。この辺りの郷土史はありますか?」

慧が女将さんに尋ねた。

「ええ。今持ってくるので、待っていてください」

「慧さん、いきなりどうしたんですか?気になることがあるから手伝えなんて…」

一緒にいた千輝が言った。

「ここは昔、一つの建物だったんだ。元々は、桜咲家が所有していた」

「お待たせしました」

女将さんが郷土史を持ってきてくれた。

「この本に桜咲家のことも書かれているはずだ」

慧と千輝は、本をめくった。

「大きな権力を持った術者の家系…これは桜咲家のことでしょうか?」

「多分な。元々ここに住んでいたのを別邸に移ったようだな」

ページをめくった。

「でもなぜ、別邸に移ったんでしょう?」

「あやかしの討伐のためだ。帝からの命を受けてな」

本には、平安時代になったあたりから多くのあやかしが人間を襲うようになった、と書かれていた。

そのために術者や特別な力を持った人間にあやかしの討伐を依頼していたらしい。

都に出ていく前に食い止めていたという。

慧は、とある一文に目をとめた。

『中には男装をして討伐に出かけるものもいた。』

慧は、さっきの頭に浮かんだ女性について考えた。

(もしかして、俺の前世のことも関係しているのか?)


天音たち三人は、真白と春香を探していた。