春香は、両親がいない時にあの部屋の鍵を探し始めた。

あの部屋は、春香が幼い頃に母から絶対に入らないようにと言われていた場所だった。

(あの部屋に、千春の遺品があるのかも)

「春香、何してるの?」

後ろから母の声が聞こえた。

ビクッと春香は肩を振るわせた。

「…おかえり、お母さん」

母は怪訝な顔をしていた。

「何か、探してるの?」

春香は思い切って母に尋ねた。

「お母さん、あの鍵のかかってる部屋には何があるの?私が小さい時に絶対に入るなって言ってたでしょ?」

「ええ。そうよ。あの部屋はあなたが入ってはいけないわ」

「それって私が小さかったからじゃない?危ないものがあって怪我しないようにとか。もしそうなら、私もう高校生だし大丈夫だよ。自分の家のことだし、教えてほしい」

母はしばらく黙っていた。

「あなたが知っても面白いことは何もないわよ。とにかく、あの部屋には入ってはダメ。いいわね」

そう言って話を切り上げてしまった。

(また、はぐらかされた…)

いつもそうだ。

家のことについて聞くと、まだ子供だから、あなたが知っていいことはないなど言われて、教えてもらえなかった。

(どうしよう。真白にもお母さんにもまだ話し合ってほしいって伝えてない。もしあの部屋が関係してるんだったら、余計言い出しにくくなったかも)

そのとき、スマホが鳴った。

「真白?」

真白からのメッセージだった。

『近いうちに春香の家に行ってもいい?』


「ふぅ…」

何とか送信ボタンを押すことができた。

「またなにかやっているのか?」

スマホを見つめて息を吐き出した真白に瑞樹が話しかけた。

「うん。あの話が終わった後、瑞樹、私に言ったでしょ?人の過去を知りたいんだったら、自分が過去と向き合って前に進むことだって」

千世の話を聞いたあと、真白と出会った時はなぜ祠に封印されていたのか聞こうとした時に言われた。

隼人に背中を押されて、帰るとは決めたものの、なかなか連絡することができずにいた。

「私、叔母さんと話してくる。これはそのための第一歩」



『要、あなたはずっとお母さんのそばにいてくれるわよね?』

要はゆっくり目を開けた。

夢を見ていたようだ。

鏡で自分の顔を見ると、ひどい顔をしている。

「久しぶりに見たな…」

今頃、母はどうしているだろう?

前に電話で話した時は元気そうだった。

父は…どうなったのだろう?

母のことは聞いているが、父がどうなったかは聞かされていなかった。



要が入院して何日かして、湊が病院にやってきた。

「要、しばらくお母さんとは離れて暮らした方がいい。その方が君のためでもあるし、お母さんのためでもあるんだ」

そして一枚の写真を要に見せた。

「この子は柏木真白。十六歳の誕生日を迎えたら、彩葉の屋敷で暮らすことになっている」