「何だそりゃ?」

それを聞いた紫音は首を傾げた。

「あ、いた!羅衣(らい)!」

一人の女性が声をかけた。

「どこにいたの?探してたんだよ」

「…人に道を聞いてた」

ポツリと言った。

「また変なことしてないよね?」

「あのアパートにいる人に聞こうと思ってチャイム押した。でも出てこなかったから、帰ろうとしたら女の子二人が来たからその子たちに聞いたら教えてくれた」

女性がため息をついた。

「あのね、普通は道を聞くだけで人様の家のチャイムなんて押さないの。その女の子たち、困ってなかった?」

羅衣は少し考えた後、

「そういえば、ちょっと怖がれてたかも」

「気をつけないと。不審者だと思われたらどうするの?それとそれ。普通の人には見えないからってやたら出さないの!」

女性が肩を指さすと、手のひらサイズの白い虎が眠っていた。

「そういえばあの子達、白虎のことも見てたような…」

羅衣は、女性に腕を掴まれた。

「そんなことより早く。桜咲家の当主に伝えなきゃいけないことがあるんだから」

「そんなに引っ張らないでよ」


真白は屋敷に帰ってから、春香に電話をするか悩んでいた。

「何をしている?」

スマホを見つめたままの真白に瑞樹が声をかけた。

「ううん。何でもない」

真白はスマホをポケットにしまった。

「そうだ。瑞樹に聞きたいことがあったの」

「聞きたいこと?」

「前、綾女が瑞樹のこと知世の眷属って言ってたでしょ?」

「ちょうどいい。お前に少し昔話をしよう」

瑞樹は人間の女性の姿になった。

「お前に封印を解いてもらうまで、私は封印されていた」


瑞樹が知世の眷属になったのは、篤人に嫁ぐ前だった。

知世は、両親をなくした孤児だった。

「おい、お前。ここで何をしている?」

しゃがみこんでいる知世に人の姿になって、声をかけた。

「水が、ほしい…」

どうやら脱水症状になっているようだった。

瑞樹は、湖のあるところまで知世をおぶった。

水を飲ませると、少し顔色がよくなった。

「ありがとう。何か、お礼をさせて」

人間に感謝されるのは、瑞樹にとってそれが初めてだった。

「お前、なぜここに来た?」

「私は怪我をした人や病気の人を治療しながら旅をしているの。でも途中で、日差しが強くて動けなくなって…」

それに興味を持った瑞樹は一緒について行くことにした。