「私の前世が知恵?何を言ってるんだ?」

慧は混乱している渚に説明した。

「お前は、前世で知恵として生きていた。でも父親が亡くなって、まだ幼い寿人たちの代わりに俺と妖の討伐に行っていた。それから何年か経って、知恵は妖の討伐の途中で怪我をして亡くなるんだ」

「言っていることがわからないぞ。そもそもその時代は女が討伐にいけるはずがないだろう」

慧は旅館から借りて来たままになっていた郷土史を見せた。

「ここに、知恵のことが書かれてる」

渚はその文を読んだ。

「男として討伐に行った女性がいた?なぜそんなことをしたんだ。普通は嫁入りしていてもおかしくない年齢だぞ」

「二人とも何してるんですか?」

晶が部屋にやってきた。

「あんまり遅いから心配したんですよ」

「悪い。すぐ行く。慧、話はまた後だ」

それからは色々忙しくなってしまい、慧と渚は話す機会ががないまま、翌日になってしまった。

「慧、また何かあれば連絡しろ」

「あぁ。わかった」

その合間に慧と渚は、連絡先を交換した。



「お世話になりました」

真白たちは渚と晶にお礼を言った。

「こちらこそ厄介事に巻き込んですまなかった。ぜひまたきてくれると嬉しい」

真白たちは渚と晶に別れを告げて、バス停に向かった。

屋敷の中では、妖たちが窓から真白たちを見つめていた。


「さて、これでようやく本家に住むことができるな」

真白たちを見送ったあと、渚と晶は桜咲家の本家をみて回った。

「来年からは渚のご両親もこっちに来るの?」

「いや、こっちに来るのは湊だけだ、大学もこっちに決めたようだからな」

「でも跡取りだから、そろそろ考えなきゃいけないよね?結婚相手とか。できれば穏便に」

「私の時に母さんと父さんが苦労しているからな。湊の場合は大丈夫だとは思うが」

「君が兄さんと言い合いになった時はどうしようかと思ったけど」

「あいつとは結婚相手としては合わなかったというだけだ。そういえば、慧ともこの話をしたな」

ふふっと渚は笑った。

「そういえば、慧さんとは何を話してたの?」

「…ただの世間話だよ」


ようやく住んでいた町に帰ってくることができた。

「結局、一週間近くいたね」

真白たちは歩きながら話していた。

「私、お母さんに連絡しないと。帰ってきたら連絡するように言われてたの」

一旦、カフェで休憩することにした。

「じゃあ私、電話してくるね」

春香がそのまま電話をしに行った。

「湊さんは家に連絡しなくて大丈夫なんですか?」

紫音が聞いた。

「俺はさっきメッセージ送ったから大丈夫だよ」

カフェの店員が大人数できたことに驚いていた。

席は何人かに分かれて座った。

幸い、店内は真白たち以外誰も客はいなかった。