「これで綾女も成仏できるはず…知世、ありがとうございます」

晶がお礼を言うと、知世は首を横に振った。

「綾女が元に戻ってよかった…でもその後のことは私にはわからないわ。知恵(ちえ)と寿人が霧人を説得していたけど…」

知世が話している途中で、真白の体が青く光り始めた。

「もう時間切れみたいね…私は綾女を連れてあの人のところに行くわ」

やがて、綾女と知世の姿は元の青い光の玉になった。

二つの光は並んで祠の墓に入って行った。


真白が目を覚ました時には、夕方になっていた。

「真白、起きた?」

横には要がいた。

「綾女は?」

「大丈夫。成仏したよ。桜咲家の本家ももう邪気が増える心配はないと思う」

「よかった」

真白はほっとした。

「明日には帰るって。今日はゆっくり休んで」

「うん。ありがと…」

真白は再び目を閉じた。

「…真白は妖や霊に憑依されやすい体質なのかもしれない。気をつけるように言っておかないとな。俺もまだまだ陰陽師としての力が使いこなせていないから、真白を守るのも難しくなってくる」

その時ドアがノックされた。

「真白ちゃんはどう?」

入ってきたのは湊だった。

「大丈夫です。さっき一回目を覚まして、また寝ました」

「そっか。かなり体力を使ったから無理もないね」

「ところで、渚さんから話を聞いたんですが、本に書かれていることと事実が合わないと思ったんですけど…」

要は、紫音たちと一緒に、巫女の歴史と伝統について渚から話を聞いていた。

「長い時間が経っているから、ページが紛失したり、文字が掠れているものもあるんだ。それをかき集めて本にしているからね」

確かに文章が抜けていたり、掠れて読めないところが何ヶ所かあったことを要は思い出した。

「それでもかなり役に立っているから、残っているだけでも助かるよ」

「そうですね」


慧は、さっきのことで引っかかることがあった。

「知恵…どこかで聞いた気が…」

「慧、何してるんだ。そろそろ夕飯だぞ」

慧は渚の顔をじっと見た。

「私の顔になにかついているのか?」

渚が顔を触った。

「…思い出した!」

「は?何をだ?」

慧は渚の肩を掴んだ。

「渚、お前の前世は知恵だ!」