「よかった!また会えて!」

「…なぜ、喜んでいる?私はお前にひどいことばかりしたのに…」

綾女は戸惑っている様子だった。

「あの時のあなたを助けてあげられなかったこと、すごく後悔していたの。あなたの間違いを止めてあげられていれば、霧人があんなことをしなくて済んだかもしれなかったのに」

綾女は、顔を歪めた。

「なぜだ!私はお前の夫でもあった男を殺したんだぞ!なのになぜ助けたいなどと思うんだ!」

知世がポツリと話し始めた。

「だって私はあの人から聞いていたから。あなたがどれだけ悩んで、苦しんでいたか」

「なんで…あいつが私を心配するんだ。あいつは私を見捨てて、お前を選んだ。私への情はもうなかったんだ!あの時私の部屋にきたのだってただの気まぐれだろう!」

綾女から黒い邪気が出てきている。

「それは違う!あの人は、あなたと話をするためにあなたの部屋に行ったのよ」

知世が綾女の手を握った。

「離せ!」

振り解こうとする綾女の手をしっかり握った。

「よく思い出して。篤人(あつひと)様はあなたを見捨てるような人じゃないわ」

綾女の手を鏡に触れさせた。

その鏡に触れた時、綾女の頭の中に記憶が流れ込んで来た。


「綾女、跡取りは寿人にすることにした」

「…え?」

綾女はその言葉を聞いて愕然とした。

先に子が生まれたのは知世の方だが、嫁いできたのは綾女の方が先だ。

「なぜです⁈知世より私の方が長く貴方と一緒にいました。なぜ私の子ではないのですか!」

「それは長男が家を継ぐという決まりだからだ」

それから篤人は話を続けていたが、綾女は正妻になれなかったショックが大きく聞こえていなかった。

「だが、霧人には寿人と共に術師として帝に仕えてもらう。妖の討伐は寿人だけでは力不足だ。霧人もかなりの霊力を持っているからな」

それは平等に扱うということだった。

しかし、綾女の耳には届いていない。

「なぜ…なぜだ…」

気がついた時には綾女は篤人を小刀で刺していた。

記憶はそこで途切れた。

「篤人様はあなたに会いに行く前に私にこいう言ったわ。『綾女は真面目で責任感が強いから私がいなくなった後は支えてやってくれないか』って…篤人様はあなたに刺されることを分かっていてあなたに会いに行ったのよ。あなたを信じていたから」

綾女は膝から崩れて落ちた。

「私は、なんてことを…」

綾女の涙が場面を濡らした。

綾女の体にまとわりついていた邪気が消えていった。