「小学生のとき、みんなで遊んだの覚えてるか?」

桜咲家の神社で、よく六人で遊んでいた。

「覚えてるよ。俺はあんまり来られなかったから、紫音たちには忘れられてるみたいだけどな」

隼人は、父が医師、母が弁護士、祖母が教師ということもあって勉強や習い事で忙しいことが多かったため、みんなと遊べる時間が少なかった。

「もう六年前だし、紫音たちは生活に慣れるのに必死だったと思うから、俺のことは忘れてても仕方ないかもしれないな」

そのため、転校してきたばかり隼人のことは、紫音たちは苗字で呼んでいた。

今は、少しずつ打ち解けてきて名前で呼んでもらうことも増えている。

「あの場に真白や春香もいたらもっと変わってたのかな」

隼人がぽつりとつぶやいた。

「多分かなり賑やかになってただろうな」

要は、真白とはすれ違いで小学校で一緒になることはなかったが、その前に会ったことがあった。

あれはちょうど今くらいの季節の寒い冬のこと。


その日は雪も降っていなかったので、手袋をせずに外に遊びに行った。

公園で夢中になって遊んでいる時に、雪が降ってきた。

あっという間に手がかじかんできて、手袋をしてくればよかったと後悔した。

「手袋ないの?」

ベンチで手を擦り合わせていると、一人の女の子が声をかけてきた。

「これ、貸してあげる」

女の子は自分のしていた手袋を外して要にわたした。

「ありがとう」

「私、明日もここにくるから。その時返してくれればいいから」

女の子はニコッと笑って行ってしまった。


しかし、要が次の日公園に行って待っていても、女の子がくることはなかった。

手袋には『かしわぎましろ』とひらがなで書かれていた。

その手袋は、今も要の手元に残っている。

(あの時は彩葉だってことに気がつかなかったな…)

前世で交わした約束を、真白はちゃんと守ってくれていた。

だが、なぜあのとき真白が来なかったのかはわからないままだった。

「これじゃないか?」

隼人が声をあげた。

要が差し出されたページを見ると、綾女という名前があった。

千輝は、晶と一緒にいた。

「すみません。手伝わせて」

晶が申し訳なさそうに頭を下げた。

「いえ、宿泊させてもらっているので、これくらいは。他にも何かあれば言ってください」

今、千輝が手伝っているのは、百鬼夜行で使うおみくじの準備だ。

「ところで百鬼夜行の時期はいつなんですか?」

「来年の秋を予定にしています。十月あたりでしょうか。ちょうど修学旅行の時期と被るので、いい記念になると思います」