「もうこの通り平気だ。それより俺はお前の方が心配だった。顔色めちゃくちゃ悪かったから」

紫音が傷だらけになっていた時の花蓮の顔色は今にも倒れそうなほど悪かった。

「今でも血とか見るのきついのか?」

「うん。前よりはマシになったんだけどね…」

以前の花蓮は血を見たら気絶するほどだった。

「でもまぁ、苦手なものは無理に克服することもないしな。俺だってまだ水苦手だし」

「でも前は私のこと助けてくれたでしょ?」

以前、橋の幽霊が出た時、花蓮が女の霊に掴まれて、湖に落ちたことがあった。

紫音は、苦手な水の中に飛び込んで、花蓮を助けていた。

「あれは、助けなきゃやばかっただろ」

(もうあんな思いしたくなかったしな…)

目の前で大切な人を失うことは紫音にとって最も辛いことだった。

「でもありがと」

花蓮がふんわり笑った。

「そ、それより早くみんなの所行くぞ!」

紫音はぶっきらぼうに言った。 

「え?なんか怒ってる?」

花蓮は疑問に想いながら、紫音の後をついていった。



結奈と天音がいる部屋に慧がやってきた。

「おまえら、もう起きて平気なのか?」

「はい。心配をかけてすみません」

天音と結奈は困ったように笑った。

「今、巫女の道具の本を見せてもらってたんです。色々あるんですね」

それは昨日、慧と千輝が書庫から探してきたものだった。

慧も隣に座って覗き込んだ。

巫女が使用していた道具の他に、その従者が使っていたものも書いてあった。

「これは…」

慧は見覚えのあるものを見つけた。

その本には、髪飾りのようなものが書かれていた。

(どこかでみた気がする。どこだ…)

『陽瑛…』

またあの声が慧の頭の中で響いた。

(これは、飛影の記憶なのか?)

慧はほとんどの前世の記憶は思い出しているつもりでいた。

しかし、何か重要なことを思い出していないのかもしれない。


「ないな。綾女について書かれた本」

「これだけの記録があるのになんでないのか不思議だな」

要と隼人は、湊に頼まれて綾女に関することが書かれた本を探しに書庫にきていた。

「あのさ、今話すようなことじゃないんだろうけど…」

隼人が前置きをしてから言った。

「どうだ?要のお母さんの具合」

「あぁ。今はだいぶ落ち着いてると思う。この前も連絡きたし」

「でも、連絡取るのは禁止のはずじゃ…」

「ちゃんと看護師とか医者が見てるところでだけかけていいみたいだから大丈夫だよ」

「…そうか」