「あなたは?」

天音が尋ねた。

「私はここで使用人をしています。あいにく晶様と渚様は不在ですので、私が皆様のお世話をさせていただきます」

その女性は、どこか人間離れしている感じだった。

「…失礼ですが、あなたは人間なんですか?」

結奈が尋ねた。

「私は人間ではありません。あやかしです」

女性が猫の姿になった。

「私は化け猫です」

右目が青で左目が赤のオッドアイをしていた。


慧と千輝は、書庫に来ていた。

「ここにあると言っていたが…」

渚に頼まれて、桜咲家の巫女の道具について書かれた資料を探しに来たのだ。

「巫女の道具は、形が変わっているものもあるからね」

一緒に来ていた蘇芳が言った。

「どういうことだ」

慧が後ろを振り返って聞いた。

「巫女の道具は最初は、鏡、鈴、化粧道具の三つだったんだ」

(三つ…)

慧は旧校舎にあった姿見と渚の持っている鈴、春香が廊下で拾った化粧道具のことについて考えていた。

「ありました。桜咲家の巫女に関する道具のことと記録が書かれています」

千輝が一冊の本を見つけて持ってきた。

「おそらくここに書かれているはずですが…」

「とりあえず、これを持っていくか」

慧と千輝が屋敷に戻ると、渚はいなかった。

「また出かけているのか?」

「…桜咲家の本家にいるようだ」

蘇芳が険しい顔をして言った。

「真白と要が向かったはずだな」

慧が言った。

蘇芳が誰にも聞こえないほどの声でつぶやいた。

「無事に戻ってこられるといいけどね…」


真白と要は女性と対峙していた。

「巫女の力を持つ娘よ。待っていたぞ」

「あなたは、誰なの?」

真白が尋ねた。

「私は綾女。かつての姫巫女だった」

「そうか…お前があの式神の主人だったのか」

前に祓った式神の女が綾女の名前を出していた。

「まさか予想外のことが起こるとは思わなかった。私の式神を使って足止めして、その娘を私の元に連れてこようとしたのだが、思わぬ邪魔が入ったな。しかしまたこうして来てくれるとは思わなかったぞ」

綾女が真白に近づいてくる。

「それ以上近づくな」

瑞樹が女の前に立ち塞がった。

「お前は…知世(ちせ)の眷属か」

綾女と瑞樹は知り合いのようだった。

「あの女さえいなければ、私が正妻になれていたのに…!」

いきなり屋敷がガタガタと揺れ始めた。

真白と要は膝をついた。

さらに黒い霧で覆い尽くされている。

「すごい邪気だ…!」

要が札を出した。

「だめだ。お前では祓いきれない」