渚は空を見上げた。

「久しぶりだな。慧と二人でこうして話すのは」

「…紫音たちの具合はどうだ?」

「心配いらない。あとは体力が回復するのを待つだけだ」

しばらく沈黙が流れた。

「それで、本当は何をしに来たんだ」

「昨日の夕方、ここで何か思い出したような気がするんだ」

「霊力が強い人間は前世の記憶を思い出すことが多いからな。私は前世の記憶はないが、湊は思い出していたようだ」

「またここにくれば何か思い出すかと思ったが、俺の思い過ごしだったみたいだ」

「そうか。なら早く部屋に戻って寝ろ」

渚に背中を押されて、慧は屋敷に戻った。


隼人は、寝ている湊と要を起こさないように部屋に入った。

「戻って来たのか?」

要がベットから起き上がって静かに声をかけた。

「紫音の邪気の浄化をしてた」

「隼人が?」

「紫音、かなり傷が多かったんだ。そんなに深くはないけど」

「邪気を吸い取ったのか」

湊も体を起こしていた。

「はい。でも平気ですから」

隼人は人やあやかしについている邪気を吸い取る力を持っている。

それは、体に大きな負担がかかる事だった。

いつもこの力を使うと、貧血やめまいに襲われる。

隼人は空いているベットに横になると、すぐに寝息を立て始めた。

隼人を見て、要と湊は少し不安に感じていた。


次の日。

昨日の雪が積もったのか、外を見ると雪景色が広がっていた。

「かなり積もったね」

「ほんとだね」

真白と春香は外を見て言った。

「君たち、起きてるか?」

ドアをノックする音が聞こえて、真白がドアを開けると、渚が立っていた。

「渚さん、おはようございます」

「実は、手伝って欲しいことがあるんだ」

大広間に行くと、要たちはもう来ていた。

「手伝ってほしいことって何ですか?」

春香が聞いた。

「まず、何人かに分かれてほしい」

真白と要、春香と湊、慧と千輝の二人一組に別れた。

「私は引き続き、あの四人のことを見ている」

渚は、それぞれに指示を出した。

「真白ちゃんと要くんは、桜咲家の本家に行ってきてほしい」

「えっ」

真白と要は同時に声を上げた。

「大丈夫だ。何かあれば私に連絡してくれればいい」

とは言われても、連絡手段がなかった。

なぜかあの屋敷の中に入るとスマホが圏外になってしまうのだ。

「そうだな…」

渚は真白が首から下げている首飾りを指差した。

「それは、何に使うんだ?」

「これは…そうだ!」

真白は眷属四人を呼び出した。

「少し助けて欲しいの」