『…あの子もいるの?真白』

予想外のことに驚いた。

(お母さん、真白のこと気にしてるのかな…)

「いるよ」

「…そう」

再び沈黙が流れた。

「お母さん、何か伝えたいなら…」

春香の言葉を遮った。

「何も言うことなんてないわ。とにかく、なるべく早く帰ってくるのよ」

そう言い捨てて、電話が切られた。

春香はポケットにスマホをしまった。

(お母さんと真白に、ちゃんと話してほしい。私もお母さんに酷いこと言ったこと、ちゃんと謝りたい)

「本条さん、電話終わった?」
 
「はい」

「俺も今終わったんだ。戻ろう」

湊と春香は、長い廊下を歩いた。

「本当に広いですね。この家。術師がいる家系なんですよね」

「うん。退魔師とは少し違くて、除霊とかを専門にしてるんだ」

「それって霊とかですか?」

「霊もあるけど、生霊とかもいたね。退魔師と協力することもあるから、仲はいいんだ。姉さんは、三人兄弟の末っ子と結婚したんだよ」

元々その末っ子は、結婚したら別邸に住むように言われていたそうで、婿入りしたと言う。

なので苗字はそのままになった。

「本当は長男と結婚するはずだったんだけど、性格が合わなかったらしいんだ」

渚は昔から気が強かった。

同じく気が強い長男とは衝突が絶えなかった。

「でも、来年の百鬼夜行が終わるまでは、本家に行かないといけないから、姉さんも最近不機嫌だったんだよね。それに加えて、桜咲家の本家もあんな風になってたから俺に連絡してきたんだ。あの鏡のことも聞きたかったから引き受けたんだけど、危ない目にあわせてごめんね」

「いえ、私は危険な目にはあっていないので、大丈夫です」

「そっか。ならよかった」

湊はほっとした顔になった。

「ところで、いつもはもっと人がいるんですか?」

「人っていうよりあやかしが多い。人間は姉さんと旦那さんの晶さんだけだね」

「でもさっき、お手伝いさんがいるって…」

「それもあやかしだよ」

(まるであやかし屋敷だ…)

「クワッ」

庭にある池の方から声が聞こえた。

見ると、河童がじっと春香と湊を見ていた。

「え⁈」

「河童だ。あの子はまだ子供だね」

見慣れているのか、湊はニコニコ笑っている。

(河童なんてほんとにいるんだ…)

「今は寒いから、凍えないか心配だけど。そのあたりは平気なのかな」

湊が心配そうにしている。

河童は寒さなど気にしている様子もなく、池をスイスイ泳いでいる。

部屋に戻ると真白がベットに座っていた。

「あ、春香。おかえり」

真白は少し明るい表情になっていた。

「嬉しそうだね。何かあったの?」

「うん。悩み事が一つ解決したの」

「そうなんだ。よかったね」

真白は春香から見て、屋敷で暮らすようになってから少し明るくなった気がする。

(お母さんと話すのはもう少し後の方がいいかも…)

真白はまだ、春香に双子の妹がいたと言うことを知らない。

春香自身もまだわからないことの方が多い。

家に帰ったら、いろいろ調べてみることにした。