旅行に行く前日に書いていたんだ。
たった四ページの短い手紙だったけど、
一つ一つの言葉に深い意味があった。
夏樹の気持ちがよく伝わる。
涙が止まらない。
目から溢れ出てくる。
悲しいけど嬉しい。
複雑な感情。
私はどうしていいか、
わからなくなって先生の方を見る。
「読めたか?」
大きく頷く。
「私も読んだよ。
今まで、こんなことしたことなかったのに。
君の何が夏樹を変えたんだろうな。
あっ、君に聞いても知らないか。
夏樹しか知らないんだから。」
本当にそうだ。
私は何もしていない。
ただただ、
普通に生活してなんでもない話をして。
私はその『普通』が大好きだった。
もしかしたら夏樹も
そうだったのかもしれない。
「一緒か、一緒。」
思わず口に出てしまった。
「そう言えばこれ。」
先生が何かを持ってきた。
見覚えのある赤と黄色いもの。
鞠のキーホルダーとラッピングされた小さい袋。
「夏樹のカバンの中に入っていたよ。キーホルダー?が何かだと思う。」
「ありがとうございます。」
袋を開けると小さなひまわりのキーホルダー。
私からしたら夏樹はひまわりのような存在だったけど、もしかしたら夏樹は私のこと……。
なんだか嬉しい気持ちになる。
「これ、もらっていいですか?」
「あぁ。もちろんだ。」
人間は不思議だ。
いろいろな感情を持ってて、普通にこだわる。
そんな不思議な生き物のことを
私は少し好きになったのかもしれない。
わからないことが嬉しい。
普通が愛しい。
これがこの一年で学んだことだ。
『ありがとう』
君には届かないかもしれない。
でも、君に届くまで何度でもいうよ。
いつまでも、ずっと。