起きると病室だった。
時計は朝の8時。
晴天だ。
お母さんがいた。
いつもいないのに。
なんか、悲しい顔をしている。
「何やってるの?
勝手に出かけるなんて。
どんだけ心配したと思ってるの?」
お母さんが泣いている。
震えている。
お父さんが死んで以来初めて見た。
「だって、お母さん私のこと、嫌いなのかなって…。」
「嫌いなわけないでしょ。唯一の家族なんだから。
いままで、ひとりにしてごめんね。」
「全然大丈夫。
ねぇ、それより夏樹は?
どこにいるの?」
「っ…。それは……。」
お母さんの目線の先には先生がいた。
夏樹のお母さんだ。
「夏樹はもういないよ。」
先生が言った。
「どこに行ったの?」
「死んだんだ。
車に轢かれて。
小さな女の子をいや、
灯里ちゃんを守ってな。」
「嘘。本当はどこにいるんですか。」
現実を受け止めたくない。
夏樹は絶対いる。
周りを見る。
でも、いない。
先生はため息をつく。
そして強い口調で言った。
「現実を見ろ。」
あっ。と我に帰った。
先生はこう続けた。
「私だって受け止めたくない。
息子が死んだんだぞ。
でも、受け止めないといけないんだ。
夏樹は君に何も託さなかったのか?
思い出を一緒に作らなかったのか?」
「いえ……。
思い出をたくさんもらいました。」
先生はほっ、と笑った。
夏樹に似ている。
「それならよかった。
夏樹は自分の仕事を終えたのだな。」
「えっ?」
「夏樹は君を変えることができたのだろう?
大切な役目じゃないか。
夏樹はいままで、人に関心を持たなかった。
でも、君が現れた。
君は夏樹を変えてくれた。
そして、夏樹は君を変えた。
どちらにとってもプラスだった。
君たちはいい関係だったんだな。
よかった、よかった。」
「ごめんなさい。」
「なんのことだ?」
「夏樹を殺しちゃったのは私だし……。」
「ははは。
何を言っている。
君を守りたいと夏樹が思ったんだ。
夏樹の決断だ。
その言葉は夏樹に言ってやってくれ。
でも、夏樹は謝罪の言葉より、
感謝の言葉の方が好きだぞ。」
「ありがとうございます。」
「あっ、そうだ。
ちょっと待っていてくれ。」
先生が走って行った。
お母さんと一対一で、少し緊張。
静かな沈黙が起こる。
でも、先に口を開いたのはお母さんだった。
「お父さんのことは気にしないでいいよ。
私は灯里を守れなかった。
あの人はすごいよ。」
「もとは私が
飛び出さなければよかった話だから…。
それと、お母さん。
私、病気なの。
虚血性心疾患って言う。」
「うん。
先生から聞いたよ。
私が知らなくって驚いてたけど。」
「そうなんだ。
ごめんなさい。
今まで、隠してて。
あ母さんに第一に言わないといけないのに。」
お母さんは柔らかい顔で笑う。
「大丈夫、大丈夫。」
お母さんは窓を見ながらゆったり言う。
そして、私の背中をゆっくりとさする。
小さな涙が私の顔を流れていく。
そのまま私はゆっくりと眠っていった。