涼葉の問題が一段落した次の日の夕方、高槻駅前の喫茶店に、新たな企画遂行のために三人が集まった。
 すなわち、綺里、涼葉、そして清水だ。
「静から連絡もろうたんですけど……。本人はおらへんのですか?」
 ふむ。すでに下の名前で呼ぶ関係になっているのか。
「単刀直入に言うよ。清水さ、滝井とキスしてないでしょ。それでしたいと思ってる。間違いないよね」
 そう言うと、その頬がみるみる赤くなり、彼は灯台のように周囲をぐるりと見回した。
 涼葉は仏陀のように目を半分にしている。事前に、彼女には作戦を伝えてあるが、ただあきれただけで、賛成か反対かすら、答えてくれなかった。
「ちょ、ちょっと。何言うてはるんですか、こんなところで」
「だいたい、最初にデートの連絡をするときは気乗りしてなかったくせに。それが付き合うことになって、あーしたちに何の礼もしてない」
「そんなこと言われても……。わざわざ連絡するのもヘンですよね。それに、き、キスとかそういうの、人に許可されるのはおかしいと思うんですけど」
「問おう。あいつにキスしようとして、まだ早いからと断られたことがある。イエスかノーか」
 彼は開いていた口を閉ざし、返事をしなかった。どうやら滝井は言いつけを従順に守っているらしい。
「あーしに協力してくれれば、先に進ませてあげる」
「協力って……」
「お前の父親のことだ」
 まるで予期していなかった単語だったのだろう、明らかに怪訝そうな表情へと変わった。
「この展開でおやじって、いったい何なんです?」
「仕事の話だ。あーしが言うとそう聞こえないかもしれないが、真剣な案件だと、最初に伝えておく」
 事情を説明すると、ある程度は想定していた通り、返事に困った様子を見せた。
「さすがに、僕の立場で即答はできないです。聞いてみるのはええですけど……」
「それで充分だ。頼めるか」
 首を傾げながら去って行く彼を見ながら、涼葉はカップに残っていた液体をくるくると回した。
「綺里姉。本気、なんですよね。赤の他人を巻き込む以上は」
「正直に言うと、自分でもよくわからない。突き進んだ先に何が待っているのか」
 ただ、彼女の指摘通り、歯車は回り出してしまった。もう止めることはできない。
 その夜、父親と会う約束を取り付けたと、清水から連絡があった。