「いいか? 皇子(おうじ)は、旅の安全を願い松の枝を結んだと言われている」

 周りから漏れそうになる溜め息を一斉に飲み込む気配がした。だってもう、その話しは何百回と聞いている。

「しかし、この辺りに松の木はないからな。妥協して他の木の枝でもいいが、結べそうな柔軟性のある枝もない。だから紐を結ぶしかないのが、本当に残念だが……」と、言われても私たちには残念の意味がわからない。
 どうやら麻美には理解できるのか可愛いお顔が浜田と同じ表情になっている。

「結べたら、皆で祈ろう。私達も、無事に戻ってくることができるように。叶えば、この紐を解こう」

 こうして、いつも若干縁起の悪いことを言う。 「無事」も何も、目的の場所は目と鼻の先だ。 しかし皇子になりきっている浜田の世界を壊す程、私達も子供ではない。だからいつも優しい目で見守ることにしている。