「信じてもらえるような証拠があったら良かったんだけど、私は歴史が苦手だからこれから起こることも記憶してない。ただ、一人だけ覚えている人はいる」

「誰だ?」

「藤白坂で亡くなった皇子」

「私は、聞いたことがないぞ?」

「悲劇の皇子って言われてる。その人のことなら少しは知ってるんだけど……」

「有名な御方なのか?」

「うん。私の住んでいるところでは知らない人がいないぐらい」

「……それは、すごい御方なのだな」

「うん。その人の詠んだ歌も有名なんだよ。私もね、何度もお墓参りに行ったことがあるんだ」

 まだ、どこかで生きているのかもしれない。目の前にいる皇子も似たような格好をしているし。きっと、この時代にはいるはずだ。偶然に会えたらいいな。なんて、思うけど。