__帰りたい。
 両親のいる。麻美のいる。みんなのいる。あの場所に帰りたい。もう、退屈だとか面倒だとか文句は言わないから。課外授業だって真面目に参加するから。戻りたい。自分のいた時代に戻りたい。

「そんなに泣くでない。しばらくは、この屋敷にいればよい」

「……しばらく?」

「そうだ。今はこの屋敷に私と側近とジジョしかおらぬ。自由に使ってもらって構わぬ。そして落ち着いたら共に戻る方法を考えようではないか」

 皇子は、そっと優しく微笑む。
 先程まで言葉もろくに通じなかったはずなの存在が今では唯一の希望。術なんてきっとない。だけど「一緒」にと言ってくれる人がいる。私は一人じゃない。

「……ありがとう」

「もう、泣くでない」

 皇子はわざとゴシゴシと強めに着物の袖で私の涙を拭く。思わず「痛いっ」と、言いながらも笑ってしまう私を見て彼はふわりと優しく笑う。しかし、すぐにその笑みに黒いベールが纏う。

「優花殿に、一芝居頼みたいのだが」

「……一芝居?」

「これから私が言う事を良く聞くのだ。そうすれば全ては上手くいく」

 よくわからないけれど今頼れる相手は目の前にいる一人しかいない。だから私は素直に頷いた。