皇子は気づいていた。
 赤兄さんが訪ねてきたその時から中大兄皇子が動き出したということに。
 大王の地位を狙っていなくとも患っていようとも、皇子の存在を邪魔にしている。そんな中大兄皇子が政治の実権を握っているとなれば、こちらが成す術はない。

 __できることは、ただ一つ。
 __斉明大王に賭ける他ない。

 悲しい。皇子は何もしていないのに疎まれている。未来を平々凡々と生きてきた私には、この時代の考え方も皇子の気持ちもわかるはずがない。こんなに近くにいるのに私は何も気づけなかった。

「……隣にいることしかできなくてごめんね」

 言葉の通り、本当にただ隣にいることしかできない自分に嫌気がさす。