「どう致す?」

 皇子の横顔が淡いオレンジ色に染まる。
 __通り過ぎるか、立ち止まるか。
 涙が溢れ出しそうになる程に、未来を想っている。だけど同時に、この瞬間を大切に思う私がいる。いつかは帰りたい。だけどそれは今ではない。じゃあ、いつなのか。と、聞かれても答えられない。

「……いい」

 小さく首を横に振ると皇子は「そうか」と、呟くだけだった。だから私も話題を変える。

「そういえば、どこの温泉に行くの?」

「ムロだ」

「え、牟婁!?」

「知っておるのか?」

「うん。未来でも紀伊国で有名だよ!」

 __白浜温泉。
 一度家族旅行で行ったことがある。

「ここから、どれぐらいかかる?」

「休憩を考えるとニ日程だと思うが」

「な!?」

 また、開いた口が塞がらない。
 家族旅行の時は、ここから車で一時間程で辿り着いた。なのに約ニ日かかるなんて文明の利器の驚異を改めて知る。